第35話 枯樹生華

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 リシャミーの作戦は大成功にして大失敗に終わった。  リコがシャーロッテというNPCから学んだとする空間の短縮移動スキル『虎哮(ここう)』でリシャミーに近づいたかと思えば、優しくエスコートするかのように馬乗りをやめるように促していた。 「リコピー、その速さはバグクラスだよ?ざんねんねん」  最速の催促により、渋々俺から離れたリシャミー。俺を跨いでいた脚が少し開き、橙色のそれは再度現れる。  下から見上げる開脚ほど背徳感を味わう行為は他にないだろう。  リコに連れられて尋問を受けているリシャミーは院内の端にあった椅子に座らされている。あの椅子は今後リシャミー以外に誰にも座らせないように院内の隅に隠しておこう。  そんな事を考えている間に、俺の身体は重さを感じることとなった。  リシャミーの時は四つん這いのまま覆い被さってきたので重さを感じることもなかったが、次は正真正銘、僅かな重さを感じた。 「ライさん、その……重くない?」  少し申し訳なさそうに尋ねてきたのはソネルだった。俺の身体の上でペタン座りをしている。ソネルも考えたな、しっかりと乗れば確かに俺も脱出しにくい。 「お馬さんごっこしたいのか?」 「えっと……じゃあ、その理由で」  可愛い嘘をつくソネルめ。どうせ、リシャミーがやっていて羨ましく感じたんだろ?  ただ、すぐにソネルをどかせようとはしなかった。俺に甘えてきている一方でどこか困っている表情をしていたからだ。 「なぁ、ソネルは今困っていることあるだろ?」 「……うん。あと何秒乗ってたらいいか、わならない」 「ははは。ソネルはリシャミーの時と違って、高いところから受け止められていないからな。1分くらいは股がっとかないと駄目かもよ?」 「わかった……頑張って数えるね」 「いや、俺が数えてあげるからさ、その間に俺とお喋りしようぜ?」 「うん……いいよ」 「ソネル……リコと何かあったか?喧嘩でもしたか?」 「ううん、してないよ……どうして?」 「んや、喧嘩してないならそれで良いさ。ソネルがリコを見る回数が普段よりやや少ないからな。さっき二人で外に出たときに喧嘩でもしたのかなって勝手に思っただけさ、気にするな。俺もこれ以上気にしない」 「あ、うん……」 「ん?どうした?気にして……ほしいのか?」  医者の親父譲りの『傾聴(オブテイン)スキル』を発動した。と、言っても正式な技ではない。会話による診療術の1つに過ぎない。  西園寺との会話でも通用したこの読心は嘘つき上手なソネルにも効果は覿面(てきめん)だった。  どうやら、リコが現実世界の事で悩んでおり、それを聞いたソネルもソネルなりに悩んでいるようだった。 「そっか。教えてくれてありがうな。また2人っきりの時は違う会話でお喋りしような?」  折角、勇気を出して馬乗りになってくれたのに、ソネルの話聞いてあげれなかったからな。せめて、次くらいはゆっくりと話を聞いてあげないとな。  するとソネルは喰い気味に言ってきた。 「じゃあ……次もお馬さん、して……いい?」  ソネルらしからぬ攻めた質問に思わず胸を射止められそうになった。気を抜いていたときのクリティカルヒットは効果抜群であった。
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