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私達を出迎えてくれたおばぁちゃんは、いつもと変わりなく入り口で出迎えてくれた。
華道の最大流派の1つである横山派の第14代目、横山梢。おばぁちゃんが手掛けた盛花は独特のオーラを放っており、国内だけに留まらず海外にも多くの影響を与えた。
大小様々なイベントや式典関係の依頼が舞い込み、瞬く間に横山派の知名度は鰻登りとなった。
そして、おばぁちゃんから受け継いだ、私のおかぁさんは15代目として、今の横山派を牽引している形となっている。
おばぁちゃんは一線からは身を退いてはいるが、おばぁちゃんの作品を慕う生徒は今でも多数いるのが横山派の現状である。
おかぁさんは、そんな現状を改善しようと急に厳しくなり、一部の生徒や得意先とも良好な関係でなくなった経緯もあった。
「何でも良いさ。あたしゃ、凛々胡を見たくて生きているようなものだからね」
おばぁちゃんはさらりと言った。勿論『孫に逢いたい』という純粋な気持ちで言っている事くらい、私にはわかる。
ただ……
「お母さん、凛々胡はもう華道から離れたのよ?」
おばぁちゃんの言葉を遮るかのように、おかぁさんは冷たく返していた。
おばぁちゃんは、私の生花の作品を観たいのだと勝手に勘違いをしては、勝手にイライラしている。
そんなくだらないやり取りに巻き込まれるのが嫌で、私は今日もそれ以上は会話に参加しなかった。
普段、おかぁさんと私だけの会話であればこんなことにはならない。お互いの間で華道の話を持ち出す事はしないからだ。
おかぁさんからすれば、華道を継がない私を良くは思わないし、そもそも今の横山派の雰囲気がお世辞でも『良い』とは決して言えない。
対して、私も今の仕事に向き合うだけで精一杯。横山派の事なんて考える隙間だなんて存在しない。
ただ、おばぁちゃんと逢えば話しは変わってくる。
横山派を世に広めたおばぁちゃんを前にして、おかぁさんは嫌でも華道の事を私にぶつけてくる。
バケツいっぱいに積もった『うんざり』はこれ以上見たくもないし、取っ手に手を伸ばそうという気にもならない。
【放置】
程よく距離感を保ちつつ、視界に入るか入らないかの微妙な立ち位置をキープすることで、問題をやり過ごすことに決めていた。
「そんなことより、私おじぃちゃんの部屋に行ってくるから」
そして、私の伝家の宝刀をここで使用する。
私のおじぃちゃんは既に他界している。おじぃちゃんの部屋に行けば私は1人になれる。私からすれば、おじぃちゃんの部屋はまさに、フリーフィールド内にある、安置みたいなものである。
端から見れば『祖父想い』の孫のようにも見える。実際、おじぃちゃんは大好きだったからそれで良いんだけど、今は私を護ってくれるヒーラー的な存在かもね。
おじぃちゃんと院長……全く関係無い2人だけど、居心地が良いのは良く似ているかもね。
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