第35話 枯樹生華

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 そして訪れた理由の2つ目が横山派の展覧会である。横山派で技術を磨き、おばあちゃんやおかぁさんに認めれた極少数の精鋭が展覧を許されている。  横山派展覧会は、華道の今を伝える大事な行事である。『いち流派の披露会』という立ち位置ではなく、京都を……ううん、日本の伝統文化の行く末を左右するイベントと言っても過言ではない。  文化の魅力は毎年過去を凌駕し、そして更新していかなければならない。常に新しい何かを追い求め、次のミライにバトンを渡さないといけない。  横山派展覧会に向けて、選ばれた精鋭は作品を、そして他の者は展覧会の成功に向けて会場運営に関する雑務を担っている。  私はその雑務を少し手伝う為に来たのである。横山派が廃れれば、おかぁさんの収入もなくなっちゃうし、そうなると両親が安心して老後を過ごせなくなっちゃうからね。  小さな親孝行程度のお手伝いをしに来ただけ。だから、さっさと展覧会に必要な小道具を運んであげて、私は院長と合流して異世界に浸りたいのである。 「凛々胡、り……居た。やっぱりあなたここに居たのね」  私の想いとは裏腹に、ゆっくりと(ふすま)が開き、独りだけの空間が見事に突破されてしまった。侵入者(こえのぬし)はおばぁちゃんである。 「うぅ~。解っているなら、もう少し遅く来てくれても良かったのに」 「何年、あなたの『おばぁちゃん』をしてると思っているの?あなたが困ったときは決まって、ここに逃げ込むくらい知っているわ」  おばぁちゃんはそう言って、私の向かいに座った。 「この部屋もね、別に無理に残さなくても良かったのよ。ただ、残しておけば、凛々胡が遊びに来てくれるでしょ?」 「ははは。よくご存知で」 「凛々胡……あなた、1年前と比べて顔つきが変わったわね、何かあったかしら?」 「ふぇ?い、いや……特に何もないけど?」 「いいえ、雰囲気が別人だわ。できたの?……彼氏(カレシ)とか」 「かかかかか、枯れ師(カレシ)とか別にいままませんケドぉ!!」 「やっぱりね……その様子だと、まだ付き合ってはなさそうね。共に同じ時間を過ごし、幾多の困難や楽しみを共有するなかで、彼の魅力に自然と目が引き寄せられている……他の娘に取られまいと足掻いてはみるものの空回りも多くて悩んでいる……そんなところかしら」  ……?! 「お、おばぁちゃんって、昔は占い師だったとか?!」 「ふふふ。そんなわけないでしょ?おかしな事を言うところは相変わらずね。顔にそう書いてあるから読んだだけよ」 「か、顔に?!う、嘘、やだ、洗わないと」 「少しは大人になっちゃったかと心配したけど、いつまで経っても凛々胡は凛々胡ね」 「うぅ……バカにするなら独りにしてクレル?おばぁちゃん忙しいでしょ、大事な展覧会の準備しないと」 「私は良いのよ。作品と向き合うときに集中するだけだから。それより、大事な展覧会だからこそ、ここに来たのよ?」 「どういう意味?」 「凛々胡。今の貴女(あなた)なら、良い作品できるわ。出してみない?」
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