第35話 枯樹生華

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「頼みごとを聞いてくれるかい?」  最近この言葉を聞くなりタメ息が止まらなくなる。軽い拒否反応のような症状が続いてしまうのだ。  例外無く、今回のクエスト探索も国のお偉いさんである秋山の言葉から始まった。アメリカで得た情報と、リシャミーから聞き出した+αを手土産代わりに報告した途端、次の困り事を話してきたのだ。  情報の報酬は大したものであった。収入源のないニートの俺からすれば大金であった。今住んでいる家の固定資産税やら光熱費、それに食費の事も十分に賄える額であった。  固定資産税を払うのが納得いかなかった俺は、秋山に「なんとか免除してくれないか?」と駄目元でお願いしてみたが「僕は市役所職員じゃないからね、それに違法な事には荷担できないさ」とやんわり断られた。  そんな、意外にもお堅い秋山からお願いされた内容は、今プレイしているクエスト【繚乱(りょうらん)たる紅色と律の調べ】内に登場するBOSSとは別の異物がいることを確認したから調査してほしいとの事であった。  禁則地でも、アメリカのときでも今のでもそうだ。秋山から依頼されたバグ絡みの案件は疲労度が桁違いで嫌になる。  ファラオの時みたいに純粋にクエストを楽しんで堪能する方が俺は気兼ね無く堪能できて好きだ。今から思えば、No.8を決める大会も、ハイカカオと俺が対峙するように秋山がわざと操作したのではないかと疑ってしまう。  実際そんなことはないのだろうとは思うが、ハイカカオと闘って以来、俺は秋山に目をつけられてしまったので、疑うくらいの事は許してほしい範疇だ。  このクエストには俺達以外にも勿論参加者は多数いる。クエスト開始は3日前からスタートしており、1週間だけの季節限定企画である。  クエストを攻略すると、最大ライフゲージの微上昇もしくは、守備力の微上昇という、報酬内容が選べる仕様になっている。  新規ユーザーも参加しやすい事もあり、開始当初から絶大な人気を集めているクエストだ。  今のところ、バグによるデータ破壊等の被害は確認されていない。リシャミーにも同じタイミングで情報は入ってきたらしいのだが、司会業と重なっていたので『今回は俺に任せてゆっくりしてこいよ』と偉そうに送り出した。  ま、リシャミーからすれば司会業も本気でしているから、気は休まらないとは思うが、これ以上バグ処理ばかりさせてたら、彼女がいつバグに巻き込まれて存在が消えてしまいかねないからな。
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