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「貴女が『した』らしいじゃない」
おかぁさんの声は怒っているようで震えていた。スライムみたいにプルプル震えているくらいなら良かったんだけど、追い込まれたBOSSがバフで攻撃力を総上げしたように沸々と怒りを蓄えては発散しようとしていた。
「したって何を……」
私はしていない。展覧会では角がたたないよう、地味な作業だけをして帰った筈。怒られる要素なんて存在しない。
だけど気になる。してないことで怒られるならわかるけど、したことで怒られているなんて見当がつかない。
私がゲームの世界にログインしている間に何かしでかしたのだろうか?……いいえ、そんなことはあり得ない。
じゃあなんで……
「聞いたわよ?貴女がしたらしいわね、運んだの」
運んだ?はこ……あぁ。運んだ。確かに私は運んだわ。
段取りが悪そうでまごまごしていた生徒から奪い取って、運んだ。
でも、あれは展覧会で必要な小道具……
そこで、私は察した。おかぁさんがここまで怒って私に問い詰める程重大な失敗が何なのかを……
「もしかして、紛れていたの……あの鋏」
横山派が昔、それもおばぁちゃんが活躍した時代よりももっと昔の時に、横山派を支える直系から、異質な人物がいて、世間を騒がせた人物がいた。
おばぁちゃんから見ておじぃちゃんにあたる人物。横山鉄斎。
その人が創る生け花は人を魅了すると言うよりかは人を狂わす程熱中させる作品だった。純粋に華道の普及と言うより、人の心を惑わす為の道具として横山鉄斎は利用していた。黒く汚れた金儲けだけをしていた悪人だった。
横山派は彼を追い出す案も出ていたが、横山派のネームを世に広めた功績を無視できずに、お灸を据えるまでには至らなかった。
そんな、過去の先代が使用していた鋏は国宝として扱われており、棄てるに棄てれない為、箱の中に眠り続けては、華道関係のフォーラムがあるときは展示品として駆り出されている。
そして……横山鉄斎が使用していた鋏は呪われている。その鋏で花を切った瞬間に枯れてしまうのだ。
誰一人扱いきれず、横山鉄斎が集めた汚いお金から吸い取った怨霊が華を枯らしているのかもしれない。
不吉な鋏は目に触れないよう、人が触らぬよう、華が枯れないように奥に隠しておくべきだ。それにも関わらず、段取りの悪い生徒は、確認せず運び込もうとした。
そして、私はそれを運んでしまったのだ。
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