第35話 枯樹生華

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(8) 「うぬ……これで皆揃った様じゃのぅ」 「遅くなってごめんなさ……って、あれなんなの……」 「ワシが来たときにはDr.徳永はあぁなっておった」  折角3人が揃ったというのに、2人の声のトーンが低すぎる。ま、休憩を挟めば誰でもテンションが低いのは仕方無いか。  テンションをハイにする補助魔法があれば2人を今すぐにでも踊り出したくなるくらいまでボルテージをアゲアゲにしてあげるのだが、人々はそれを混乱魔法と呼び分類分けされている。治癒師(ヒーラー)の枠組みではそのような活力剤的な魔法は今のところない。  ただ、そんな寝惚(ねぼ)(まなこ)な君たちにピッタリの物を今回既に大量に用意しておいた。そりゃもう俺の体を隠すくらいに大漁に。  そう。俺は2人がログアウトしている間にこのクエストの世界を探索し尽くしていたのだ。正確に言えば、クエストの事ではなく、このフィールド内に生息する植物について調べていたのだ。  竹林の近くに、手のひらサイズの葉の普段見かけない植物が蔓を巻いて、地面付近に生い茂っていた。  スタート地点の景色なんて他のプレイヤーからすれば気にもならないだろう。  しかしだ!!  俺は、このクエストに参加してからずっと気になっていたのだ。 【竹林の足元には植物は育ちにくい】  これは、竹林が伸びると日光を遮ってしまい、光の恩恵に(あやか)れない植物は育つことはないのだ。  でも、何故だか、手のひらサイズの植物君達はグングンと伸びていた。  調べてみると意外な事実が判明した。この植物は日光からではなく、竹から養分を吸って成長していたのだ。  その名も【竹林草】。現実世界には存在しない変な植物である。  解析を続けていると、この植物には大きく分けて2つの効果が判明した。  1つ目は、摂取するとライフゲージが微回復力する。一番安い回復薬と同等の回復量。  そして、ファラオの包帯を装備しているマミーの俺でも回復したのだ。回復系が一切逆効果だった俺でも回復に成功した、唯一の回復法だった。  そして、2つ目。この植物に触れ続けていると、ライフゲージが減るという点。  吸収(ドレイン)効果があるようで、少しずつライフゲージが減る。これは竹から養分を吸っているのと同じ事が起きているのであろう。  そして、俺は疑問に思った。 『摂取することで回復する量と、触れていることで吸収され減る量。いったいどちらが多いのか』を。  大きな葉を口に咥え、身体全体にぐるぐる巻きにしたまま暫く横たわっていた時に、グデンファーとリコがやって来たのだ。 「い……院長だよね?」 「あぁ、勿論だ。俺が植物園の園長に見えるのか?」 「良かった意識があるみたい。白衣着たまま、蔓とか葉っぱがぐるぐる巻きでいるから、頭が錯乱してたのかと思ったよ…………なんだか真剣に悩みそうになった私が馬鹿みたい、あはははは」  リコは突然笑い始めた。再ログインして直ぐは浮かない顔をしているように思えたが、どうやら俺の思い過ごしだったようだ。  ……いや、もしかしたら、この竹林草には近くにいる他のメンバーのライフも同時に回復させる効果があるのか?! 「うむ……リコ殿の様子を見るに、Dr.徳永はこれが平常のようじゃな」  (いぶか)しげな表情をみせているグデンファー。 「どうだ?グデンファーもやってみるか?元気になるぞ」と言って竹林草をあげようとしたが「ワシは……やめておく」とあっさり断られてしまった俺。 「さぁ、揃ったな!じゃあ……行く前に、竹林草の蔓とってくれないか?身動きが取れなくて」 「んぇ?!そのせいでずっと横たわっていたの?!」 【検証結果】  摂取で得られる回復量と、触れる事で減る量は同じであり、ライフゲージに増減は発生しなかった。しかし、蔓の成長は早く、身体に巻くと身動きがとれなくなるので、良い子と単独(ソロ)プレイヤーは真似しないように。
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