第35話 枯樹生華

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「あのキリン(・・・)さんを掴まえたらいいの?」  俺の前までやって来たリコは、そう言って武器を構えていた。体制を立て直す為の時間を稼いでくれており、非常に助かる。  まるで動物園に来ているかのように余裕の表情を見せていたリコ。初めて遇うBOSSに物怖じしない所はさすがトップクラスの二刀流バーサーカー様といった所だ。 「あぁ。でも、あの麒麟(きりん)さんの餌付け体験は少々難しいかもな」 「うぬ。どうやらBOSSはあの1体だったようじゃのう」 「だな。んやだよ、逢いに来たくせに攻撃するなり逃げやがって」  【ターゲット:ロスト】という文字が表示され、BGMも元の静かな曲に逆戻りしてしまった。今回のBOSS戦の曲は俺好みだった。少しのフレーズしか聴けなかったが、神へ嘆願するような神秘的な曲だった。  麒麟は2人を丸焦げにし、姿を眩ました。  今回のBOSSは異質だった。  アメリカでハイカカオと闘った、死神ネルガルは、完全に姿を消し肉眼で捉える事は不可能であった。だが、奴は攻撃するために俺達に近づいてくれた。  見えなくても、奴の攻撃をかわす工夫さえ怠らなければ何パターンかの勝機は見いだせた。  しかし、今回の麒麟は違う。遇えば攻撃こそしてきたが、必要以上に戦闘をせず、数ターンで【逃げる】という選択肢を選んだ。  遇えても逃げるBOSS。  このフィールド内を縦横無尽に逃げ回る。しかも、地上ではない空中を。 「これは、期間内にBOSSを倒すのは難しいかもな。遇えた時に何等かの策を講じないと、追いかけ回しているうちにクエストの閉園時間を迎えそうだな」  姿を確認できただけで、俺達はまだ麒麟にダメージも与えてなければ、今回の依頼であるバグとの関連性も解っちゃいない。 「近づけば、雷でドッカーン!!だなんて、あんなのズルいよね?」 「だな。『逃げる』『翔ぶ』『光速(はやい)』の3拍子はこのゲーム史上一番面倒なBOSSなのは間違いないようだ」  対峙してわかった。このクエストで失敗したメンツは、落雷で殺されたか、追いかけることができずに降参したかのどちらかだろう。  嘆いていても仕方無い。麒麟さんを誘き寄せるにしても、追いかけるにしても、作戦会議をしなければならない。  
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