1041人が本棚に入れています
本棚に追加
「さてさて、本当にどこかに消えちまったな」
さっき出逢えたのが夢だったかのように、平穏な風が竹林を優しく押していた。揺れる度に囁く葉の擦れた音だけが返事をしてくれていた。
参加者も極限まで減っており、先程の2人以外に出逢えそうにもない。人類が滅び、自然だけが地球を制圧した世界を体験しているような錯覚に陥る。
自然の前では人類は無力で、蟻と同等だ。いや、自然の驚異に対し、無謀にも立ち向かおうと考えている時点で、蟻以下の存在なのかもしれない。
人類以外の生物は皆、自然を受け入れてきた。風を受け入れた者には羽を、水と共に生きる道を選んだ者にはエラが与えられた。
そして……
人類は、稲妻を何よりも畏れたのだ。
低い音は心の奥底へと響き、隠れる隙を与えてはくれない。
「雷を操るモンスターの攻略法……なぁ」
悩んでも案は直ぐには出てこなかった。しがない治癒師が数分悩んだところで、解決するようであれば、人類はもっと自然を見下し、天狗になっていただろう。
「ねぇ、院長!!餌付け作戦とかどうかな?!」
「何を呑気に。今のまま遭遇しても、俺等が麒麟の餌になっちまうだけだぞ?」
リコにしてはいい作戦かもしれないが、俺等に釣られてノコノコ現れてくれるのであれば苦労はしない。死神ネルガルとは違い、逃げる事に重きを置いている。
にしても、逃げることに特化しているだなんて珍しい。もし麒麟がRPGの主人公であれば、コマンドは
【たたかう】
【にげる】
【にげる】
【にげる】
みたいな感じだろう。まさに、敵である俺達のタイムアップを狙う事に特化した選択肢と言えよう。
「さて、Dr.徳永よ。追うにしても、誘き出すにしても、手がかりがないとのぅ」
その通り。闇雲に移動してもお目当てに逢えない事は俺達3人は既に体験済みだ。
「でも、皆凄いよね~」
「ん?何が凄いんだ、リコ」
「だって、さっきの参加者さんは、キリンさんの存在を知っていたし、しかも逃げてたよ?」
最初のコメントを投稿しよう!