第35話 枯樹生華

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 参加者2人を仕留めたときとは違い、今は奴と眼が合っている。近くでみると奴の大きさに圧倒されそうになる。鋭い眼光から醸し出される無限のオーラに吸い込まれそうだ。  奴の身体は洗礼されたフォルムで無駄な筋肉がついていない。まるで競走馬のような後ろ足はとても綺麗で彫刻をみているようだ。  BGMの狂乱さとは対照的に、興奮することなく落ち着いている麒麟。感情に流されることなく雄々しい立っている様は圧巻だ。  向こうから此方に詰め寄ろうという気はどうやらないらしい。その場から動かずに此方をずっと睨めつけたまま。いつでも逃げれるように、いつでも攻撃できるように備えていた。BOSSがステイをしているのを見るのは久し振りかもしれない。 「なんと、お利口なことで。あれじゃ迂闊に攻めたり詰めたり出来ないじゃないか」 「じゃが、何か行動に移さんとまた逃げられてしまうぞ」  グデンじーさんのいう通り。このまま指を咥えたままステイという名の地団駄では折角呼び寄せた麒麟さんが逃げてしまう。  もう、同じ策で釣られてくれないかもしれない。知性がありそうなBOSSなら同じ策は通用しないだろう。麒麟用のマタタビがあれば別なのだが、そんなリーサルウエポンの存在も知らないし、あるとも思えない。  だから、これが最初で最後の遭遇戦。俺だけでなく、リコもグデンファーもそれは気づいている筈だ。  最初っから飛ばさないで、いつやるのか? 「リコっ!1ムーブ目。グデンファー、2ムーブ目頼む」  通常ならわどんな攻撃パターンで相手を詰めていくか。それは左手からなのか、右手なのかさえ共有していく。でないと、相手がどの方向へ回避するか等の計算が全て狂ってくるからだ。  普段一緒に戦い慣れているメンバー同士であれば、事前に何パターンも練習をしてから本番のクエストへ挑む。その為、アイコンタクトや短い単語で共有する。  だが、俺達のように即席チームであれば、なおのことしっかりとした攻撃パターンは練ることに専念するべきだ。  ……普通ならな。  だが判るんだ。 「リコ……行きます!」  合図を出した瞬間に、麒麟の背後へと移動する。俊足の移動術『虎哮(ここう)』を修得したリコは、必ずこの動作に入るだろう。直接見たことはないが、リコなら絶対にする。  俺の読み通り、リコは警戒しる麒麟の眼さえ騙す程の速さで背後に回り込むことに成功していた。 「えっい!!」  リコは声に出しながら、4連撃の攻撃モーションに入った。麒麟はリコを警戒し、その場から離れようと後ろへ下がろうとした。  ただ……  リコは攻撃するとき、あんな大きな掛け声をしたりはしない。リコはワザと麒麟が逃げれるように隙を作っていたのだ。  なぜなら……  リコよりも剣技に優れたじいさんがいるからだ。 「流石リコ殿じゃのぅ」  無駄な力を籠めず、絹を撫でるかのように優しいモーションで水平斬りをしたグデンファー。近くにあった岩が溶けたバターかのようにスパンと真っ二つに斬れた。  グデンファーの恐ろしい攻撃を交わすため、麒麟が選んだ選択肢は…… 「やはり上空(うえ)に逃げてくるって思ったさ」  リコの攻撃も、グデンファーの攻撃も麒麟の余裕を無くすためのフェイクだった。  勿論、それは俺に任せてくれる為だった。 「まずは逃げれないように点滴からだな」  リコの動きも、グデンファーの動きも、そして麒麟が最終ここへ逃げてくることも、全て俺の計算に収まってくれた。  俺は、とある魔法を発動し、麒麟に浴びせた。
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