第35話 枯樹生華

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 荒ぶる息に挙動不審な足元。ドシドシと落ち着きのない仕草が地面を振動させている。纏う雷雲も怪しく光っており、臨戦態勢とみて間違いないだろう。  隠れていた動物たちも危機を察知したようで、一目散に逃げていた。本来であれば、麒麟が同じ場所に居座る事なんてないのだろう。直ぐに移動してはまた次の場所へ移動する渡り鳥のような行動パターンであり、もともと生息していたら小動物やモンスターは、一時だけ身を潜めているだけで済んでいた。  今までは……  今は違う。激昂の作用により、興奮状態ゆえ麒麟は逃げることを忘れている。 「逃げない……まさか、本当に麒麟を『逃がさない術』を編み出すとはのぅ……」  麒麟を受動的に逃げない環境を創り出すのは容易ではない。神獣をその場に繋ぎ止める為の首輪を捜し始めるところからスタートしなければならないからだ。そんな存在がこのクエストのセカイに有るかどうかもわからないまま。  だから逆をついた。『能動的』に逃げないようにすれば解決するのでは? と。  たどり着いた結果は俺達を納得させるものだった。 「感心してる場合じゃないぞ。激昂は本来、追い込まれたBOSS特有の技。精神が肉体を凌駕する発狂モードであり、桁違いにヤバい状態だからな」  俺が2人に注意を促そうとした瞬間、麒麟はこちらに向かって突進してきた。雷と同化したかのような速さでこちらに向かってきた為、攻撃をまともに受けてしまった俺達。  ライフゲージの減少は思ったより少なかったが、俺を含め3人から笑顔が消えた瞬間でもあった。 「み、みんな……生きてるか?」 「反則過ぎない? 何よ、今の速さ……」 「うむ、どう捉えたらよいかのぅ」  シールド魔法を発動していれば、もっとライフゲージを護れたのかもしれないが、実際にはそれが出来なかった。  俺の即時詠唱による発動よりも麒麟の動きの方が速いという、何よりの証明だ。 「ここまで速い生き物だとは想定外だけど、何とかしないとな」  奴の行動を見てからこちらが動いているのであれば間違いなく手遅れだ。常に相手の動きを先読みしないと勝ち目は薄くなるどころか、勝てる要素がゼロだ。  
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