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睨み合いをする為の間ではない。心の隙間を縫うように動き出す1つの影がそこにはあった。麒麟は光の化身だとすれば、彼女は闇に溶ける気流のような存在かもしれない。
彼女の移動術は幽霊から受け継いだとされる悪魔染みた一品。
人を辞めた犯罪的なスピードを支配する彼女は、さも当然かのように無表情を貫いている。
「麒麟さん、ごめんね?」
麒麟の視線がリコを捕らえようとしていた時には、もう攻撃のモーションが実行されていた姿から映し出された。麒麟は怪訝そうに眼を細める時間しか与えられていなかった。
リコの斬撃が何度も麒麟の身体を蝕む。首から身体にかけ、何度も撫でるように斬りつけられた麒麟。奴の存在を現す命の線も減少が止まらない。
ライフゲージは正常を表す緑色から黄色へと徐々に変化していた。
麒麟は堪らずリコを吹き飛ばし、自分も距離を取るために大翔へ回避した。
「あいててて」
リコは吹き飛ばされただけで、攻撃を受けたわけでもなく、大してダメージを受けてはいなかった。
「また空に逃げちゃったね、院長」
「いや、大丈夫だ。激昂はまだ続いているから、空へ上がっただけで、まだ此方を威嚇している」
怒りでもっと暴走してくれるかと少し期待したが、麒麟も案外賢い生き物だ。上空へ逃げればグデンファーが地中へ隠した斬撃にも対処出来る。
簡単には倒れてくれそうにもないな。
「Dr.徳永っ!麒麟の様子がおかしいぞ!!」
麒麟の異変にいち早く気づいたのはグデンファーだった。上空へと逃げた麒麟を剣先で指し俺達へ注意を促した。
「何?見えないよ~」
リコが背伸びをしながら上空を確認している中、俺も視力強化魔法を使用し麒麟の奇行を見た。
麒麟の意志とは別の何かが神獣を動かしている。マリオネットのように奇妙に動き出す。すると、麒麟のライフゲージの色が黄色から緑へと戻っていた。
「あいつ……自分自身で回復してやがる」
俺の眼に映ったのは、麒麟が自身へ雷を撃っていた。その雷を身体へと吸収しライフゲージを回復しているようだ。だが、奴の意志とは明らかに違う。
どうみても、他者からの関与が感じられる。
「……あれだな」
俺の眼で初めて捕える。麒麟の背中にコッソリとしがみついている小さな異物を。どうもあいつの影響で回復するよう指示が出ているようだ。
「充電出来るとはのぅ」
「んだよ、じーさんだから疲れてきてるのかよ、ついて来れなければ腰掛けてても構わんぞ?」
このゲームの世界において、属性を帯びたモンスターは、その属性攻撃を浴びても回復しない仕様になっている。つまり、雷を纏う麒麟が、雷技を浴びても本来ならば回復などしない。だが、麒麟に寄生している、あの小さなバグのせいで回復を可能にしているようだ。
他のプレイヤー達が麒麟撃破に苦労していた理由がここでハッキリとした。基本的に奴は逃げる性質であり、留めておく事でも苦労する。それだけでなく、バグのせいでいつのまにか回復までしているという折り紙付き。これじゃあ、まともにやりあっても勝ち目なんて存在しない。
負けしか存在しない違法ギャンブルと何も変わりない。
「ワシが休む?ははははは。身体の中の血が思い出させてくれるのじゃよ。がむしゃらに攻めた頃をのぅ」
グデンファーの眼も、リコの眼も曇っちゃいない。トッププレイヤーの2人に怯むだなんて感情は無いのかもしれない。
逆境こそが彼等の身体を突き動かす力の源そのものなのだろう。
「あんな化物相手に、良くもまぁ挑みたいだなんて思えるよな2人共」
「そんなこと言って~。院長が一番笑ってるよ、顔」
リコに指摘されたのを誤魔化すかのように、俺は着ていた白衣のズレを整えた。
「さて、第2ラウンドと行きますか?」
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