1042人が本棚に入れています
本棚に追加
/345ページ
「ここまで手こずるとは思わなかったな」
「うん、でも通用していないわけじゃないよね?」
リコのいう通りではある。麒麟に付随する異物の影響により結果的に毎回フリダシに戻っているだけであり、手も足も出ないわけではない。
だが、宙を駆け巡る難敵にダメージを与えるのは容易では無く、グデンファーの剣技も回数を重ねる度に当たらなくなってきた。
激昂しているとはいえ、麒麟はグデンファーの攻撃パターンを把握してきていたのである。
「うむ……ここまで手数を見せるとやはり慣れてきたのぅ」
長期戦を強いられた俺達に分が悪いのは言うまでもなかった。そして……
「大丈夫。私に任せて」
唯一、麒麟と互角に闘えているのはリコだけであった。リコが修得している最速の移動術からの攻撃は麒麟の思考を掻い潜りダメージを与える事に成功している。
いつしか俺もグデンファーもリコのサポートに専念するような格好になってしまっている。
「リコ。無理するなって、これでは埒が明かない」
「大丈夫、大丈夫」
リコは俺の心配をよそに独りで麒麟と戦っていた。
「Dr.徳永……」
「あぁ、わかっている。一旦『退く』のもありかもしれん。リコの攻撃しか当たってないから、リコがムキになって攻めすぎている。あれはオーバーワークの域を越えている」
ここへ来て少人数パーティであるデメリットが露呈してきた。唯一、敵にダメージを与えることが出来ているリコが暴走し始めてきた。
【攻撃できる私が頑張らないと】
そんな焦りに似た感情がリコの思考を極端に狭くしているのかもしれない。俺が『退こう』と提案しても、『大丈夫、まだ戦えるよ』と言って俺の話を受け入れてくれようとはしなかった。
戦いにおいて、作戦の共有は非常に重要である。グデンファーはその事に理解はあり、俺が次の策を練れるように、麒麟から一旦距離を取ることに理解を示してくれた。
だが、リコは攻撃することに集中し過ぎてしまい、退くことに理解をしめしてくれようとはしなかった。グデンファーも、今の状況が良くないことも気づいてくれていた。
リコが俺の話を集中して聞けないのには何か他に理由があるのかもしれない。今のリコを見るに『今はこのまま闘っていたい』という感情に支配されている可能性がある。
このクエストに参加する前、ソネルから聞き出したリコの事も気になる。リコはどうもリアルの事について悩み事があって、その影響からか『戦いに集中してリアルを忘れたい』と願っているのだろうか。
憂さ晴らしに似た感情が俺の忠告を聞こえなくしているのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!