第35話 枯樹生華

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 リコの動きが悪いわけではない。緩急をつけた動きは麒麟との隙間を調和し、不可能とさえ感じた『攻略』の文字を手繰り寄せる確かな軌跡でもあった。  だが、リコの動きに『重さ』が失われていた。リコが辿った軌道はあまりにも独特で、麒麟は勿論、俺達でさえ想像の遥か先での動作となっていた。  それでも…… 「あれ……?」  いくら軌跡が鮮やかでも、  どれだけ攻撃を与える事に成功しても……  麒麟のライフゲージの減り方は急激に緩やかになってしまった。まるで、俺が装備しているファラオの包帯を身につけているかのように、リコの攻撃が通用しなくなってきたのである。  その異変に、当然リコも気づいていた。攻撃を重ねた後に、リコの口から現実を疑うかのような言葉が漏れていた。 「リコ、もういい。退こう」  俺は何度も提案する。だが、リコはそれを良しとはしてくれなかった。 「ちょっと院長、静かにしてくれる?集中しないと麒麟さんを倒せないよ?」  思うようなダメージを与えることが出来ていない現状に苛立ちを見せ始めている。リコが俺に意見を言ってきたのも久しぶりであった。出会った頃は良く俺の行動に文句を言ってきていたが最近はあまり感じなかった。  リコから意見を言われるのは嫌いではない。むしろ欲しいくらいだ。彼女からの問いがあるからこそ俺も考えを修正できてきたし、何より最高の『答え』を導きだす為に必要だ。  だがそれは、リコ側にも俺の意見を受け止めてくれる心のゆとりが必要になってくる。今の彼女には俺の言葉が吸収されていない。  攻撃に対する苛立ちが彼女の剣技の重さを削っていた。  苛立ちを生む発生源は俺だとリコは錯覚していた。だからこそ俺の言葉を素直に受け止められないのだろう。  俺の推測では、リコの剣技を曇らせている原因は、リコの感情の深層に眠る不安からだ。 「止まってくれ、お願いだ」  強引に声をかけ、リコの動きを制止させた俺。 「だから、何よさっきから!!邪魔なんだけど?!」 「リコ。俺は言葉を選ぶのが上手な方ではない。それに思っていることは隠さないから言うぞ?今のリコじゃ勝てない」 「何よ!!院長がそうやって邪魔するから集中出来ないんですけど」
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