第35話 枯樹生華

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(10)  状況が悪くなった今、院長がやたら声をかけて来るようになってきた。きっと私の攻撃さえ麒麟さんに通用しなくなってきていると思われているからだろうな。  いつも心配性な院長。治癒師(ヒーラー)なのだから心配性なのは当然なんだけど、それでも今はそれじゃあ駄目なんだよ。  心配したって何も変わらない。  逃げたって状況が良くなるわけでもない。  勝つためには常に戦わないといけない。たとえ、それが独りでも……  私はそうやって今まで生きてきた。横山家の娘として産まれてから、ずっと華道に向き合わされてきた。  私自身ってなんだろう。このまま華道に縛られっぱなしの人生なのだろうか……と思い始めて以降、花を見るのも嫌になった時期が過去にはあった。 「お花さん綺麗なのに、私は……」  私の人生は苦痛ばかりだった。おかぁさんから華道の事で怒られてばかり。綺麗な花とは対照的に色のない日々が心と眼を曇らせた。 「お花さんに色を吸い取られているんだ、きっと」  このままじゃ、私の人生は枯れたお花のように色を失い、モノトーンだらけの日々に染まっちゃう。  私という輝く色を取り戻す為、私は横山家から距離を取り美容師という異世界へ飛び出したのだ。  私が切ればお客さんを笑顔にできる。私のハサミから新しい未来を創り出せることを知り、独りでもがむしゃらに頑張ってきた。  退いちゃおしまいなんだよ、院長。敵の強さに飲み込まれちゃって、圧倒されて、(もが)かずに抵抗もせず諦めたら、そこからは何も生まれない。  華道という大きな敵に、ただただ従うのではなくて、私の人生は、自らの手で輝かせるべきだ。私はそうやって独りで生きてきたし、生き抜いてこれた。  そして……  今でもそうだ。自分の剣技でこれまで何度も斬り拓いてきた。バディバトルでは、No.エイトにも選ばれたし、そして何よりシャーロッテさんから最強の移動術を教えて貰っている。  たとえ、グデンファーさんや院長が戦え無くても、私が、私なら!!私だから!!  麒麟さんは今、院長の方を見ている。院長が逃げようと提案していることに本能的に気づいているんだわ、きっと。  麒麟さんの視線だけじゃなくて、麒麟の脚が院長の方向に向いた瞬間を狙えば、かなりのダメージを与えられる筈……  いまだっ!!  私は残り少ない気力を振り絞り最高の移動術をもって挑んだ。  ただ、このとき  私を送り出した風は何故か余所余所しく感じた。普段なら気持ちいい風が駆け抜けてくれるのに、今は血液に似た少し温めの嫌な風が私の顔を撫でたのだった。  
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