第35話 枯樹生華

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 今まで握りしめていた物が無くなった瞬間、同時に握力も同時に消えていった。 「あ、あの……」  私の前には麒麟さんの姿が。武器を持たない私の事をじっと見つめては動こうとはしない。  馬鹿な私を嘲笑うなら早くしてほしい。そして、早く一思いに食べちゃってほしい。院長やグデンファーさんに会わせる顔がないよ。  院長の呼び掛けを無視して、独りで突っ込んじゃった結果、武器を失い完全に勝ち目が無くなっちゃった。  何してるんだろう、私……  今見えているもの全てが受け止めきれない私は眼を閉じた。  どうしよう。どうするんだろう、私……  武器を喪った私に価値なんてなく、これから先このゲームにログインすら出来なくなるんじゃないかな。  もぅ一思いに消してよ、麒麟さん。  麒麟さん?  さっきから私のライフゲージは減ってはくれず、そのままだ。心のゲージはもうすっからかんなのに。  麒麟さんは私に威嚇するどころか、私に取り付いてきた。いつでも噛める位置にいるにも関わらず……  まさか…… 「リコっ!!」 「リコ殿っ」  囮にされてる?! (だ、駄目。2人とも)  ……あれ?!声が出ない。何で?  私は今更知った。自分の身体が麻痺していることに。麒麟さんの攻撃は武器破壊だけじゃなく、私の事も同時に襲っていたんだ。  私の身体は声が出ない状態異常【声帯麻痺】に侵されていた。  歩くなどの行動は制限されていないが、声が一時的にでない麻痺の一種。麒麟さんに近づき過ぎた事で、纏っている雷の影響からか珍しい状態異常になっていたのだ。  そして、  私を殺さないままにしているのは、私を囮にして2人を誘き寄せる為だ。  伝えないと。  ……どうやって?声も出ない、麒麟さんに纏わりつかれて身動きが取れない私がどうやって2人に伝えるの?  逃げ出すことも許されず、闘うことも、伝える事さえ出来ない私。独りで突っ走った挙げ句、囮にされて仲間にピンチを招く私。  助ける価値もないのに、2人は私なんかの為にこちらへ向かおうとしてくれている。
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