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状況としては笑顔なんて出ない。院長と一緒に沢山のクエストに参加し、なんとかクエストクリアをもぎ取ってきた過去はある。輝かしい栄光にも思えるけど、そんな記録や記憶なんて『今』には何一つ影響しない。
BOSSが怯んで負けてくれる?ないない、そんな忖度だなんて。モンスターが人に優しくするなんて稀だ。ジョブである『サーカス』でモンスターを操る以外に強制的に従わせるだなんてあり得ない。
この場にソネルちゃんがいれば別だったかもしれない。あの子は『詐欺師』も『サーカス』も全スキルを極めた比類なき天才。鬼才な発想なら院長を笑顔を曇らせる事も……ない。
そうだ……ない……
院長の隣は私じゃ相応しくない……。ソネルちゃんのように院長を慕い、しっかり院長の言葉を受け止め、そして応えられる人が居るべきなんだ。
私の居場所だと思っていた所を、私の不甲斐なさで自ら捨てて生きてきてる。
華道も……二刀流も、そして院長の傍でさえ……
院長の笑顔に救われていただけで、私が院長の力になんて何1つなれていない。
だから、いつかあの笑顔はくもり、そして私に向けてくれなくなる時が訪れる。
華が枯れる時が迫るように。
悪魔が花弁を下から引きちぎろうとするように1枚……また1枚と喪われていくんだ。私は今まさに枯れを待つ華なんだ。
希望を握りしめていない私に出来る事なんで、もう……これしかないよ?
ごめんね……
私は何も持たず麒麟さんへと突っ込もうとした。
「リコ?」
良いの、院長。これでいいの……。私が1秒でも早く死んじゃえば、場を乱す愚か者はいなくなって、院長の笑顔はこれからも続くよ。
初めての経験だった。死ぬとわかって行動することは。これまでは、最期のサイゴまで武器を握り締めて闘ってきたのに。
今は戦うことさえ烏滸がましいとさえ思う。
なんとなくわかる。
私、このバトルを機にこのゲームを辞めようとしていることに。
戦う理由も、戦う意思も喪った私は静かに去るべきなんだと。
敗戦処理をただただ遂行する為だけに私今走っているんだ……
「まずい!!武器無しじゃ危ないっ」
良いの、院長。危なくて良いんだよ。私の旅は無意味で自分の性格が最悪だって再認識できたんだから。
多くの雷を纏い、これまでにない一撃が私を含めて辺り一帯を襲った。あまりにも一瞬のことであった。
雷が光を吸収したかのように、目映い閃光が拡がり、全てを無にするかのように白い空間に包まれ、私は眼をそっと閉じた。
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