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現実世界に戻ってきてしまったけど、私の心臓は今も揺れていた。また剣士として麒麟さんと交えることができたことは私の中で大きな変化をもたらした。
不思議な時間でもあった。自分1人では味わうことのできなかったであろうボーナスタイムは、新たな門出を祝う音を奏でていた。
心地いい跳ねるようなリズムと共に。
ただ、この現実世界に戻ってきた瞬間に不協和音のようなノイズが私のリズムを狂わした。
「凛々胡ちゃん、ちょっとエライことになってきてしもうて~」
おかぁさんのお弟子さんの1人が私の姿を見るなり弱音を吐いて近寄ってきた。聞けば、展覧会に飾る予定だった1人が謎の体調不良で病院へ運ばれたらしい。
その報告を受けただけでどれぐらい大変な事なのか私にはわかった。展覧会となる会場は人の混雑を避けるため、入口から出口まで一方通行となるように設営しなければならないほど沢山の来場者がやってくる。
各方面から著名人がやってくることは勿論の事、今後の大型契約を見定める場でもあり、横山家としても全くもって手が抜けない重要な機会だ。
いくら名家と言えど、胡座をかくような事をすれば衰退する可能性は十分にある。この世には華道以外にも素晴らしい物はこの世に溢れており、わざわざ華を飾らなくとも場を彩る手法は現代においてたくさんある。
だからこそ、この展覧会は誰1人欠けてはならないのだ。おばぁちゃんが『展覧会に出さないか』と私に声をかけてくれたのも、横山家として作品を飾ることができる『頭数』を増やしておきたいという想いで、とりあえず声をかけてくれたのだろう。
「倒れた方が創る予定の作品の数は?」
「3つって話やったよ~」
「誰かフォローできそうなの?」
「先代と先生が必死に対応してはる。でも、あと1つが……」
おばぁちゃんとおかぁさんの2人が対応してるみたい。でも作品は心を籠めて仕上げないと華は応えてくれない。
「それに凛々胡ちゃん、あんな……」
「どうしたの?」
「今な、数年ぶりに『例の方』が展覧会に来てしもうてん……」
お弟子さんは困った表情を浮かべながら言ってくれた。
「えっ?!もしかして……」
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