第35話 枯樹生華

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「その『まさかさん』がやってきてはるわ~。セガールはん」  (リク)・セガールさんは名高い空間演出家である。世界規模の企画展をはじめ、見本市などを世界各地のイベントを盛り上げては成功を納めている立役者が彼なのだ。  陸・セガールさんと横山派の華道がコラボした企画は過去に1度しか実現していない。1度でも彼の目に止まったと言えば聞こえがいいが、逆を言えば彼から見放された過去作という捉え方もできる。  横山派とすれば、彼の知名度と影響力は計り知れないものであり、是非とも次のコラボをお願いしたいところではある。だが、ここ数十年は実現していないのが現状。彼の最先端で最尖端のエッジの効いた表現の世界からはお声がかからない。  そんな彼が何故、企画展に足を運んだのか。真意はわならないけど、陸・セガールさんのお付きの人が、京都にいる間のスケジュール調整で、【短時間で時間を潰せる適当な場所】としてたまたま選んだだけだろう。数年前も数分間たち寄っただけで何のアクションもなかった。  でも、華道を背負う最大流派である横山派からすれば面子を保つ必要が当然にある。だからこそ、陸・セガールさんには本物をもって出迎える必要がある。 「誰か……いないの?創れる人」 「凛々胡ちゃん。そんな肝っ玉座った人がおるなら、新しい流派築けるよ」 「ふふ、確かにそうかもね」  おばぁちゃんやおかぁさんも慌てるくらいの横山派一大事だって言うのに『じゃあ私創ります』だなんて生徒が現れるわけがない。みんな尻込みして余計な事は言わないよね、普通。  さて、私には…… (私には?)  関係無いことだし…… (関係無い?) 「ねぇ……体調不良の人って……」 「あぁ……えっと、確か例のハサミを片付けようと運んでたときに、なんや倒れはったって聞いたで」  関係無い?私のせいだ。私が確認を怠って、あんな危険で不吉なハサミを持ち込んだりしたから……  知らず知らずのうちに蒔いちゃった種が芽を出して、不幸という惡き華が生気を奪ったんだ。困る私たちを嘲笑うかのように遂行したんだ。  事実を知ってしまった私。  どうしようもない私。結局、私が選んだ行動のせいで、多くの人が困る結果になっている。  ゲームでも一緒だった。私の勝手な判断で……2人を……困っ……  このとき、  何故か院長の笑っている表情を思い出した。屈託の無い笑顔。でも、諦めていないまっすぐな眼差し。私に託してくれたあの瞬間……  私は何を感じ、何に気づいて、何に応えようとしたのかを。  見えている輝きだけが美しいのではなくて、価値のある成績だけが素晴らしいのでもなくて、  自分は何が出来て、自分は何をすべきなのかを見極めて、迷わない為の退路をわざと絶つ覚悟を決めるなのかが重要だって。  あの麒麟さんとの闘いで教えてもらったじゃない。  私は拒んでいた1歩を踏み出した。 「どこにあるの、華とか?」 「えっ?!凛々胡ちゃん、止めとき。華道が嫌で最期の方は手も震えてたやん……」 「大丈夫。大丈夫……じゃないけど、私、闘う事を選びに来たんだと思う」  今までは嫌いだから避けてきた。  でも、それでは何も生まないし解決しない。  違ったんだ。  華道が嫌いだからこそ、苦手意識があるからこそ、敢えて華道と向き合って闘うことが大切なんだって事。
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