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「活ける花はあるけど……」
よしっ。活ける物さえあれば作品にはなる。後は鋏さえあれば……
いや……私は棄てたんだ。自分専用の鋏はもう手放している。
「ねぇ!!鋏貸してくれない?」
「それが……うちの鋏が急に錆びてしもうてて……」
取り出して見せてくれたのは錆びだらけの鋏。聞けば、毎日手入れしているのに、さっき見たときには一瞬にしてこの有り様だったらしい。
あの呪われた鋏が押し入れから出て以降、説明しがたい奇妙な出来事がたて続けに起こっており、お弟子さん達はみんな畏縮してしまっている。
「1つくらい、作品が無くてもいいんちゃう、凛々胡はん……」
お弟子さんの1人がやってきて私を宥めようとする。確かに、1つくらいはあっても無くても変わりないかもしれない。
でも、空間を彩る天才、陸・セガールさんはそんな穴を見逃す筈がない。僅かな穴でも、違和感に気づかれては拭いきれない程の汚点となり印象として記憶されてしまう。
鋏がなくては作業にならない……
やっぱり、私の出る幕なんて無いのかな……
ううん。そうやって、すぐ諦める言い訳探しは何も生まないって院長が教えてくれたじゃない!俯くのは結果が確定してからでも遅くはないよ、今じゃない。今は……
何でも良いから戦う為の武器を握ることを選ばなきゃ!!
「鋏……はさみ……はさ……あっ!!」
私は思い出したように一心不乱で走り出す。取り憑かれたように動き出した私を皆は怖がって制止することもなかった。
そして、隠されている場所は私にはわかる。あんな危なっかしい物、もう外に出すまいと奥へ奥へと隠されている筈。
私のおかぁさんならそうする。おかぁさんの子どもだもん、そんなことくらいわかる。
「あった……鋏」
「凛々胡ちゃん、何して……えっ?!その鋏って!!」
「そうだよ。横山鉄斎のハサミ……」
私が武器として選んだハサミは、呪われた鋏として敬遠され続けた横山鉄斎が愛用していたもの。『死を加速させる鋏』として長年嫌われ続けた諸悪の根源さんだ。
「駄目よ、凛々胡ちゃん!!貴女まで体調不良になったら、先生や先代に何て言えば良いか……」
「大丈夫。倒れても構わない。そうやって私はいつも戦ってきたもん」
無茶しても、無理しても、
無謀なことしても……
馬鹿な私を毎度救ってくれるお医者様が私を癒してくれる。
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