第35話 枯樹生華

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 陸・セガールは凛々胡に対し熱い視線を送っていた。自信ありげな眼差しからはこれか冗談ではないことを物語っている。 「陸さん、それはちょっと困ります」  言葉を挟んだのは凛々胡の母。視線が一瞬にして彼女の方へ集まる。 「おや?私はリリコ君と交渉しているのだよ?横山派ではないのであれば、今は下がっていただきたい」 「えぇ。交渉は好きにしてください。うちの()は横山派からは離れて違う世界で戦ってます。だから、凛々胡は華道の心得を最後まで習得していません。……ただ、横山派にとって掛け替えのない宝です。彼女がまた横山派に戻って、習得するまで、待ってあげてはもらえないでしょうか」  凛々胡の母は陸・セガールにお願いした。華道のいろはを伝授するまで待って欲しいと。華道から離れた凛々胡を嫌っているのではなく、ちゃんとした一人前になってから使ってあげてほしいという願いだけを伝えた。 「おかぁさん……」 「陸・セガールさんのお仕事、生半可な技術じゃ駄目。ちゃんと華道の基礎を学びきってから挑戦してほしいの」  母からの言葉を受け止め、凛々胡は言葉を紡いだ。 「陸・セガールさん。お仕事のお話ありがとうございました。でも、この場では断らせてください」 「なっ……何故だね」 「おかぁさんは、華道を捨てた私なんかのことを、横山派として待ってるって言ってくれました。それに、この場は横山派の展覧会。この空間に作品を飾らせてもらっている段階で、私の作品は横山派に託してあります。だから、私と交渉……ではなくて、おかぁさんに交渉してください」 「成る程……リリコ君の言い分も一理ある。だが、君が華道のいろはを修得するまで待てる程、私に時間はありません。では……」  陸・セガールは凛々胡の母の前で止まった。 「リリコ君のサポートを全面的に協力願いたい。今回の交渉は、リリコ君1人ではなく、横山派の皆さんと交渉したい!!勿論、リリコ君以外の作品も飾ってほしい。君たちが奏でる華道への想い、葛藤……その総てを表現してほしい。勿論、報酬は先程よりも弾ませてもらうよ、いかがかな?」  陸・セガールの一言で、横山派とのタッグが実現し、場は歓喜の音で沸いた。乱舞する感動の声は、美しい華が生けられたように艶やかであった。  
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