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「あ……やっと、お姉ちゃんが来てくれた」
飼い主を待ちわびた猫のように、リコを姿をみたソネルがすり寄っていた。人間に『待て』の芸はどうも苦手らしく、リコの袖を握りしめて「もう離さないもん」と言った表情を浮かべている。
「ログインが遅くなってごめんね、ソネルちゃん」
「お姉ちゃん……忙しいの?」
「ちょっとね。企画展の飾りつけでアメリカまでお仕事しに行ってたりだったから、やっと日本に帰ってきたの」
「お姉ちゃん……大変。でも……」
ソネルはリコの様子をくまなくチェックした。スカートにシワはないか。ヘアーアレンジは乱れていないか。何処からともなく虫眼鏡を持ち出してはじっくりと観察している。
「ちょっと、ソネルちゃん?!くすぐったいんだけど」
「ジッとしてて……確認中」
「あ、はい」
入念にリコの様子を観察していたソネル。身体を間近で見られているリコは凄く恥ずかしそうではあったか、可愛いソネルには反抗できず、従順な態度を見せていた。
「うん……いつもの綺麗なお姉ちゃんに戻ってる」
「んぇ?!私、そんなに服装ボサボサだったの?!」
プリーツを何回も触りスカートのシワが無いか何度も確かめていた。
「えっと……悩んでた?感じ……でも、もう」
「うん。大丈夫だよ!体力は大丈夫じゃないけどね、えへへ」
確かにリコは疲れているような様子ではあるが、それは精神的苦痛による疲労ではなさそうで安心した。
麒麟との闘いで武器を失ったリコは、このゲームを嫌いにならないか心配したが、それも問題無さそう。
「リコが疲れているんじゃ、リコの新しい武器捜しもまた次の機会だな」
「うん、それも頑張らないとね!!」
先日挑戦した麒麟との闘いは手に汗握る展開だった。俺が死ぬ間際にグデンのじーさんからスナッチした武器を拾ってくれたリコは、麒麟と闘う姿勢を貫いてくれた。
リコの移動術、虎哮は麒麟の攻撃より速度が勝っていた。比類無き速度を誇る一撃は見事だった。
だが、リコは麒麟を狙わなかった。麒麟に取り憑いていた異物だけに狙いを定めていた。
3人がかりで作った麒麟の一瞬の隙を、リコはバグ破壊の為に全うしてくれたのだ。勿論、その後はリコの攻撃に気づいた麒麟がリコを仕留めていた。
結局、あのイベントでは麒麟を倒せる強者は現れなかった。だが、俺達の闘いぶりは総て映像がリアルタイムで流されており、麒麟に破れた俺達が街に戻った際は沢山のプレイヤーから労いの言葉をかけられた。
「疲れているリコに朗報があるぞ?」
武器調達が無理そうでも、リコを楽しませる用意は出来ていた。
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