第36話 良薬口に苦し

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「でも院長、料理って言っても、この材料が玉ねぎとじゃがいもと人参だけだと野菜スープしか出来ないんじゃない?!」 「うっ、確かに」  どれだけ良い環境を整えたとしても、素材が貧相であれば何も良い物は産まれない。 「……と落胆すると思っただろ?『まさか、今からメインになる肉を求めて狩りに行くの?!』みたいな展開になるのでは?と不安になっただろ、リコ。  大丈夫。リコの武器を新調してないのに、そんな事させるわけがないだろ?」 「凄い……。料理で私の事楽しませようと提案してくれたり、私に気遣って狩りのイベント避けてくれてたり、今日の院長いつもと違う!凄く、すご~く紳士さんだよ?」  ふっふっふ。そうだろ?見直したろ、リコさんよ。  まぁ実は、このプランを提案してくれた人がいた。それは西園寺だ。この前、久し振りに俺の医院を訪ねに来たときに、麒麟との一戦の話をしたことがあった際、 「……あら?すると、殿方は、異物(バグ)の処理を手伝わせ、武器まで失ったリコ様に対して、お詫びの品もお渡しされてない……そんな事でよろしくて?」  と独特な笑みを見せながら怒られてしまった事があった。  その時に、西園寺から女性を楽しませる為のプランをしこたまレクチャーされ、その1つが『料理でもてなす』という事なのだ。西園寺プランでは、料理を作ってからリコを出迎えなさいと言われていたが、それだとリコのガス抜きにならないと思い、一緒に作るという体験系にシフトしたわけである。  事前にソネルにも相談したところ、「メインとなる食材がないと……困るよきっと」と助言をもらっていたので、作戦は既に実行しているのだ。  さて、メインになる食材なのだが、現実世界から持ってくるわけにもいかない……かと言って、街中にメインとなる食材が出回っている事もなかった。まだ『味覚』が実装したばかり。食材の個人消費をまだ想定していない街に出回るわけがない。  じゃがいもや人参などの野菜は、アリストテラスの嗅覚を利用して見つけ出すことに成功した。  そして、メインとなる食材の調達も、イオマンテにお願いしてあるのだ!!狩りと言えばアイツ以外に似合う者を俺は知らない。数々の猛者を薙ぎ倒し、フリーフィールド内の(ぬし)の1匹として恐れられているアイツなら捕獲出来ない肉なんてない!!  すまんな、西園寺。リコをもてなすくらい初級クエストくらいの余裕なのだよ、俺にとっては。
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