第36話 良薬口に苦し

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 テローゼの歯に衣着せぬ発言が人気を呼び、恋愛診療は全くの陰りを見せない。テローゼへ相談がしたくて、このゲームをプレイするプレイヤーもここ最近多いと聞く。  彼女の助言により、もやもやした心が軽くなると評判だ。  だが、今回は【料理音痴】というパワーワードが俺達の心を強く抉った。  流石、ゴースト系最恐BOSS様。ヒューマンの心を転がすその精神操作、歪みない所は唯一無二感が醸し出されている。  強く……強く……響くぜ、この痛み……  俺はまだ良い。料理音痴なことぐらいありのままを受け入れている。が、問題はこのお二人さんだ。テローゼから言われた一言が余程ショックだったのか、今手に持っているボウルがずっとカタカタカタと音を立てているではありませんか。 「そそそんなこと無いよ、テローゼちゃん?ねぇ?」 「うん……勿論だのっ!」  なっ?!  嘘をつくことが大の得意である、あのソネルが動揺しすぎて、語尾がおかしくなってるぞ?!誤魔化しきれていない程のダメージを負ったと言うことなのか?!  畏るべしテローゼ。一撃で2人の心を折るとは恐れ入った。 「ジャア、シチュー頼ンダゾ?」  ご注文入りました。やはりシチューだそうです。 「だ、大丈夫だ、2人とも」 「何が大丈夫なの?!最初から大丈夫ですけど?!ねぇ、ソネルちゃん!」 「うん……【調理師】のジョブが存在してたら詐欺師(ペテンシ)なんて選んでなかったほど」  嘘つけ。ってか、どーしたソネル。俺でもすぐに解る程嘘つくのが下手くそになってるぞ?! 「良かったよ」  2人の圧に良い返事が思いつかない。空気を変えないと、堪えられない程黒く淀んだ状況で調理に取りかからないといけなくなる。  それは避けなければ!! 「じゃあ、イオマンテから届いた肉を早く開けようぜ」  俺はデリバリーバードが運んでくれた袋を開け、メインとなる肉の包みを開けることにした。  肉は重要だ。カレーであれば、牛だろうが豚だろうが、鳥であろうが。大体の肉なら何でも合格点の味がでる、魔法のような料理である。  しかし……  【シチュー】となれば話はガラリと変わる。味を主張し過ぎる肉であれば、味の調和を取るのが桁違いに難しくなる。  だから、シチューとなれば肉選びは最重要項目となる。カレーのスパイスのように誤魔化しは一切効かない。ゴースト系モンスターに打撃のみで立ち向かう格闘家なみに通用しない。  頼む。鶏肉であってくれ。  この状況を打破するには、もうその選択肢しか残っていない。むしろ、中身が鶏肉でなければ、役目を終え、今から飛び立とうとするデリバリーバードを捌く事態になるかもしれない。  頼むぞ、相棒(イオマンテ)  手に汗握る状況が俺の呼吸を荒くする。平常心を保ちつつ、勢い良く開けてみた。  中から光が飛び溢れ、俺達の眼を眩ませた。 「この光……俺は許された……のか?」  ありがとう、神様。イオマンテ様。これまで俺の頭を何度も噛んでいた事も許しちゃいます。むしろ、イオマンテが獅子舞だと思えば噛まれることも幸せだと思える。次逢った時は思いっきり俺の頭をパクパクしてくれ。  光が鎮まり、俺達の前に肉が現れた。 【ライはジャイアントバッタの肉を手に入れた】  俺達の前にご鎮座するのは、虫系モンスターの肉だった。
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