第36話 良薬口に苦し

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 助け船を出したことで、朦朧としていたリコの意識もハッキリしてきた。眼の焦点も合ったようで「あれ?!私……」と呟いては髪を触っていた。 「寝ぼけてるのか?料理するんだろ?」 「はっ!!そうだった」  イオマンテから届けられた肉。その名も『バッタ肉』。現実世界ではイナゴの佃煮という恐怖料理……失礼、郷土料理なるものが存在する。  俺は文化を馬鹿にする気も無ければ、文化を滅ぼそうと強行策に出ることも勿論しない。  だが俺は食べない。絶対に食べない。  彼等が食してきた歴史があるように、俺を含めリコやソネルにも【バッタを食材として認識して来なかった歴史】がある。  それを無理矢理食べさせるのは、個人の人権を基本的に尊重していない事である。リコにはリコの。ソネルにはソネルの意思、感情がちゃんとあるわけで、それを外部の人間がどうこう言う問題ではない。  そこには【良かれ】という言葉は存在しない。  皆それぞれ別々の人生を歩んできた中で価値観の相違は必ずある。  当たり前である。  そんな当たり前を忘れ、『良かれ』を相手にぶつけてはならない。 「なぁ、リコ。あいにくだが、カレーの具材になるであろうお肉はバッタ肉しかないんだが、どうする?他の食材にするか?」 「そうだった!!バッタよ、バッタさん!!思い出した、私、食べようとしてたんダッタ!」 ……えっ?! 「お姉……ちゃん?」  意識が回復したと思ったら、急に180度違う意見を言ってきた、リコ。  さらに、リコは徐に包丁を手に取り、手際よくバッタの肉を部位ごとに切り分けていた。まるで、どこかの料理長を務めていたかのように迷い無く刃を滑らせている。そんなリコの姿に俺とソネルは呆然とするだけであった。 「サ、院長、早ク調理シヨーゼ」 「じゃあ、まぁ……リコが食べたいって言うのなら、バッタ肉採用しようか……って、そんな馬鹿な事なるわけないだろ!!どうせ、テローゼなんだろ?」  テローゼの姿がない。やはり、テローゼはリコに憑依し身体を乗っ取っていた。この状況を楽しんでいやがったな。なんて曲者なんだ。
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