第36話 良薬口に苦し

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 今日は厄日かもしれない。狩りやクエストがないからもっと平和なスローライフを満喫できるとばかり想っていたが、これ程面倒なことになるとは思わなかった。  テローゼが思いの外、厄介者であった。「キッチン?嗚呼、好キニ使エ」とか気前の良い返事をしていたわりには邪魔をしてくるではないか。  と言うか、今更ながらテローゼの反応が癪に触る。「好きに使え」とか言っていたが、ここは俺の医院内だぞ?好き勝手に使ってるのは、むしろお前のほうだぞ?  これじゃあ、リコの気分転換どころか、下手すれば虫肉食べて一生ログアウトする可能性がありそうだ。 「ウウン、私ハ、リコダゾ?」 「あ~はいはい」  リコはそんな語尾を使用しているのを聞いた事がない。ゴースト系は嘘をつくのが下手くそなのだろうか。 「早ク虫肉食ベヨーゼ」 「あ~はいはい」 「院長、好キダゾ」 「あ~はいは……」  いっ?!  今なんと仰有いましたか、テロー……いやいや、リコさん。  『有り』じゃないか!!  普段、少しツンツンしているリコ。リコから好意の言葉をいただいたことがあっただろうか、いや、無いはずだ。  そんな彼女から「好き」と言われて嬉しくないわけがない。  彼女のルックスも本物、声も本物……  ということは、もはや本物認定してあげても良いのではないだろうか。 「なぁ、テロー……リコ。『魔術師手術中』って3回言ってみてくれ」 「アァ任セロ。 【魔術師(マジュチュシ)手術中(シジュジュチュウ)魔術師(マズチュシ)手術中(チヂュツチュウっ)!アジュチュシ、チジュチュチュウウ!!】」  お前はなんて可愛いんだ、テローゼよ。普段から舌足らずで言葉を話すのが苦手なんだなら早口言葉なんか出来るわけないだろ。俺の無茶振りぐらい断れよ。  そして、そのドヤ顔やめぃ。誇らしそうな表情をしている中、恐縮なんだが1回も言えてないぞ?そして、リコに憑依したまま言っているから、リコが早口言葉を盛大にミスっているようにしか見えない。  ソネルも頭では理解しているものの、お姉ちゃんの早口言葉のミスがツボに入ったのか、赤面したまま悶えていた。 「可愛いけど……お姉ちゃん……返して」  駄目だ。脱線しすぎて包丁を握る気にはなれない。
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