第36話 良薬口に苦し

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 気を良くしたのか、気づけばテローゼは俺の診察用椅子に座りつつ温かい飲み物を啜っていた。 「呑気なものだな。憑依して好きなだけ騒いで満足して、お茶なんか飲んでさ」 「ン?リコニ憑依ナンカシテナイゾ?」  はいはい。嘘がお上手ですこと。俺は何も『リコに憑依』しただなんて一言も言ってない。自白ご苦労様です。 「ソレニ、茶ジャナイゾ?『ムスカリン』ダゾ?」  は?ちょちょちょ……は?  ムスカリンって、俺が毒キノコから抽出していた劇薬なんですけど?医療に使えるか試しにサンプリングしていた猛毒なんですけど?  何もないかのように温めて呑みやがって。それ抽出するのに大量の手間隙費やしてるのわかってがぶ飲みしてる?死んでも知らねーからな。  ……。  ゴースト系モンスターに毒って有効なのか?! 「ねぇ、早く調理しようよ、院長!!」 「あぁ……ああ。そうだな」  バッタ肉はひとまず違う所に置いておこう。イオマンテに返してやれば喜んで食してくれるだろう、きっと。  さて。  テローゼからシチューが食べたいという御注文に従い進めて行こうと思う。街の外にいるイオマンテには『違う肉を捕獲してくれ』という指令を送ったことだし、届くまでの間、この場にある食材を切っておこう。 「さぁ、まずは野菜を切ろうか」 「はいは~い!院長、斬るのは任せてほしい」  あ……おう。相変わらず威勢が良いな、リコさんよ。  二刀流の剣も失った今、包丁で気を紛れればそれで良しとしよう。 「じゃあ、頼んだぞリ……コさん?」  あの……。食材切るだけなのに、包丁2本も持たなくて良いのだが。 「す~~は~~。参りますっ」  参ります?! 「あたたたた!!」  宙を舞う食材。見事にサイコロサイズに斬られた食材達はボールの中に吸い込まれるように落ちていった。 「凄い……お姉ちゃん」 「えっへん!どんなもんよ」  褒めるソネルに得意気なリコさん。  楽しんでいるところ悪いが、ミックスベジタブル化した小さい野菜達をこのまま煮てしまえば、恐らくペースト状に成りかねないのだが、どう伝えてくれようか。 「リコ。まずは、包丁を両手で持つのは止めてくれ。危なっかしくて見てられん。猫の手はどうしたんだ?猫の手は!」 「えっ?猫の手?こうか……ニャン?!」  包丁を置いて猫のポーズを決めるリコ。可愛いポーズ、非常に眼福なのだが、これてリコの料理スキルが0だということが確信し、ある想いが俺を攻め立てる。  リコにこのまま料理をさせてはヤバいことになる、と。
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