恋花火

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『綿あめみたいな笑顔だね』 ヤダ‥なんか‥嬉しい。 いつだったか、ラジオで流れていたのを聴いた曲のように あなたは私に言ってくれた。 今日は今年最後の花火大会。 手には綿あめ、水ヨーヨー。 頭にお面をちょこんと乗っけて リンゴ飴の屋台に入る。 夏ももうすぐ終わりかぁ‥ 『じゃあ隆史さん、みさえの面倒 お願いします』 面倒だなんて‥私はもう17だっていうのっ。 お母さん、子ども扱いしないでほしいな。 カラコロ、カラコロ、下駄の音も楽しげに弾み お姉ちゃんに着せてもらった浴衣姿の私は、 ちょっとキツくて苦しい帯を気にしながら 立ち並ぶ露店にウキウキ‥あなたに手を振った。 『背が高いから、迷ってもすぐにわかるよ』 そういって、私の頭をポンッと撫でたあなたの大きな手は とてもゴツゴツしていて優しかった。 あなたは年上の人。 仕事は‥建築関係っていってたよね? 『みさえぇ』 高校のクラスメートが声をかけてきた。 あ、たつき‥うん‥うん‥きゃはははは 他愛もなく はしゃいで笑い、 ともだちは金魚すくいに駆けていった。 私は後から ねえねえ、隆史さん 花火‥あっちのほうが、よく見えるかな? 『そうだなぁ‥あっ! みっちゃん、こっちこっち』 あなたは私の手を引いて、 神社の石段を少し上がった場所にある木の下へと向かう。 ひゅーん‥どっかーん 大きな花が夜空に咲いた。 オレンジ色、桃色、赤色‥青や緑の小さな花も明るく咲いて 真っ黒な空が色とりどりに染められる。 よかった‥こんだけ花火の音が大きければ あなたに私の胸の高まりは聞こえないだろう。 こんなに光があふれ、顔をいろんな色に染めてくれれば 真っ赤になった私の顔もごまかせるだろう。 夜空に咲いた恋花火‥ラジオで聴いた、あの曲のように言ってみる。 『ん? なにか言ったぁ?』 う、ううん。 花火、綺麗だねぇ‥ なんだか泣けてきそう。 夜空に咲く花火‥パッと咲いて、パッと散る。 私の恋もそう。 花火大会が終わって、秋になったら あなたは『あなた』でなくなって 『おにいちゃん』になる。 あなたはお姉ちゃんの結婚相手だもんね。 私の想いは秘めたまま、今夜の花火と一緒に夜空へ飛ばそう。 そして‥いつか私はあなたと違う誰かと、 花火でない恋を‥花を、胸に咲かせたいと思う。 どうか、この胸に花が咲いてくれますように。 その願いを聞き届けるように、大きな光の花が 空いっぱいに広がっていた。
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