世界大会1

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世界大会1

雲が晴れ、窓から朝日が差し込む。 風も止んだようで、船体の駆動音だけが聞こえてくる。 すると、扉が開き、誰かが部屋に入ってきた。 「カーラ、起きて」 リアがカーラの体を揺り動かした。 カーラは体をよじらせるが、布団から出ようとしない。 「そろそろ到着するから、支度しろって」 「ふぁい…」 返事も寝ぼけたままで、ぼーっとしている。 そんな様子にリアはため息をつく。 「もう…早くしないと、またブレンダ先輩に怒られるよ」 「えっ!?」 ブレンダの名前が聞こえた瞬間、カーラはバッチリ目を覚まし、部屋を見渡す。 さすがに起き抜けに怒られるのは避けたいのだ。 ブレンダがいないことを確認し、カーラはホッとする。 クスクスと笑う声が聞こえて目を向けると、リアが何故か笑っていた。 「…とりあえず、顔洗って髪を整えてきたら?すごいことになってるから」 そう告げて、リアは部屋から出ていった。 顔を洗いに洗面所に行くと、顔にはよだれの跡が… 髪も爆発しており、それはもうひどい状態だ。 これではリアに笑われても仕方がない。 カーラは恥ずかしい気分で支度をするのだった。 『まもなく着陸いたします。お手荷物のお忘れのないようご注意ください』 船長のアナウンスにカーラは思わず身構えてしまう。 カーラにとって飛行船に乗るのは初めてのことだった。 まるで巨大な建造物のようで、廊下には柔らかな絨毯が敷き詰められ、細部までこだわった装飾が施されていた。 また、一人一人に客室があてがわれた上、乗務員の洗練された丁寧な対応、舌が踊る美味な食事、ゆったりと温まれる浴室。 まさに快適そのものであった。 窓の外を見なければ、空を飛んでいるとは思えなかっただろう。 そう思い返す内に、飛行船は音を立てて着陸した。 ゆっくりと扉が開き、地上への階段が現れる。 「「ご利用ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」」 カーラたちが階段を降りると乗務員たちが声を揃えて見送りの言葉を述べた。 カーラはそれを少し名残惜しそうに見つめる。 「そこ!ぼけっとしない!」 「はいっ!」 突然のブレンダの声にカーラは反射的に返事をする。 ただ、声を出したのはカーラだけだった。 周りを見ると、他は皆緊張した面持ちでいた。 カーラは気を抜いていたのが自分だけだということに顔を赤くする。 「…これからが本番よ。早く切り替えて頂戴」 そう言って、ブレンダはさっさと歩き出す。 皆が移動するのに、カーラも急いでついていく。 飛行船の発着場は平原の真ん中にあり、周りには何もないように見えた。 だが、しばらく歩くと、ある場所を境に突然景色が変化した。 色とりどりのテントが目に飛び込み、歓声がうるさいほどに響いてくる。 あまりに唐突なことに、足を止めカーラは固まってしまう。 「カーラ、どうしたの?行くよ」 「す、すみません」 リアに声をかけられ、カーラは慌てて追いかける。 テントの立ち並ぶ道を進むと、四方八方から騒ぎ声や音楽が聞こえてくる。 その場にいる人々は随分盛り上がっており、顔を赤くした男が踊っていたり、箒で空を飛んでいる者もいた。 そんな雰囲気に、カーラは疑問を抱き、前を歩くリアに尋ねる。 「あの…これだけテントがあって、騒がしいのに、どうして発着場からは分からなかったんですか?」 「ああ、そのことね。あたしも去年聞いたんだけど、会場全体に認識阻害の魔法がかかっているらしいよ。だから、会場の外では何も見えないし、何も聞こえないんだって」 リアの説明にカーラは納得する。 しばらく進み、ブレンダは会場で最も大きなテントで足を止めた。 「受付をしてくるから、ここで待機しておいて。監督、行きますよ」 ブレンダはバシュレ監督を引き連れて、テントの中に入って行く。 テントの周囲に目を向けると、箒を手にしたグループがいくつもあった。 「ねえ、あれって『白馬の騎士』じゃない!?私、ファンなの!サインもらってきていいかな?」 あるチームを見つけたリアがはしゃぎ出す。 カーラにはよく分からないが、おそらく有名なチームなのだろう。 「ダメに決まってるだろ。ブレンダ先輩に雷を落とされるぞ」 ディルクがリアの襟首を掴み、動きを止める。 リアは不満げな表情だが、ディルクに大人しく従った。 ブレンダに雷を落とされる方が、面倒くさいと感じたようだ。 「おや?これはこれは、『踊る妖精』の皆さんではないですか?」 その嫌らしげな声に振り向くと、頬のコケた気味の悪い男が立っていた。 「うちに何の用でしょう?」 その男の姿を見たハンスがすばやく対応に入る。 「いえ、ただのご挨拶に来ただけですよ。昨年の優勝チームの皆さんにね…おっと、見ない顔がいますね」 そう言うと、男は一瞬でカーラの目の前に移動する。 「お名前は何ですか?学年は1年生ですか?」 男は薄ら笑いを浮かべて、カーラに質問をする。 だが、その舐めるような視線にカーラは声を出せなかった。 「やめてください、うちの後輩にちょっかいをかけるのは」 リアがカーラの前に立ち、男を睨みつける。 「これはまた威勢がいい子犬だ…でも、そういうのは嫌いじゃないですよ…」 男はリアにも気味の悪い視線を向けた。 「いい加減にしろ!」 ハンスは肩を怒らせて、男を押しのける。 「それ以上するんだったら、実力行使をするぞ!」 「おお、怖い怖い。生徒会長ともあろう人に暴力を振るわれようとは…でも、いいんですか?出場停止になりますよ」 「この…!」 「何の騒ぎです?」 戻ってきたバシュレ監督が静かに尋ねた。 「ああ、これはかの有名なバシュレ監督。お会いできて光栄です」 男はわざとらしく、深々と頭を下げる。 「《邪悪な蛇》のエトホーフト君ですか…」 「おお!名前まで覚えていただけているとは…!」 「君の行いは噂で聞いています。力を見せつけたいならば、競技の場で示すべきではありませんか?」 バシュレ監督はエトホーフトに諭す。 口調は穏やかであるが、その目には怒りが表れていた。 「…あなたに言われては、引き下がるしかありませんね。ですが、そこの番犬の手綱はしっかり握っておいてくださいよ」 エトホーフトはそう言い残し、人混みの中に紛れていった。 「カーラ、大丈夫?」 「はい、問題ないです…」 カーラはリアの問いに弱々しく答える。 大事には至らなかったが、カーラは精神を削られたような感覚を覚えた。 だが、ハンスを見ると、それ以上に疲弊した様子だ。 悔しげに唇を噛み、エトホーフトの去っていった方向を見つめていた。 その隣にバシュレ監督がそっと立つ。 「ハンス君、君はとても誠実で責任感のあり、非常に仲間思いです。だからこそ、大切なチームメイトに手を出され、憤りを感じた。そうですね?」 「…はい、その通りです」 「もちろん、君の行いは間違ってはいません。ただ、君は自身の力で何でも解決できる、そうは思っていませんか?」 バシュレ監督はハンスの正面に立ち、じっと顔を見つめる。 「世の中には自分の力が及ばないことなど、数え切れない程あります。君はもっと周りの人間を頼るべきです。君には背中を預けられる仲間がいるでしょう?」 ハンスはチームメイトに目を向け、その言葉を飲み込みように天を見上げた。 そして、再びバシュレ監督に視線を向ける。 「分かってくれて良かったです」 ハンスの表情を見て、バシュレ監督は安堵した様子だった。 「バシュレ監督、急にいなくならないで下さいよ…あれ?どうかしたの?」 戻ってきたブレンダが問いかける。 「いや、ちょっと蛇がいただけさ。さあ、行こうか」 「は?どういうこと?」 ブレンダはハンスの答えに首をひねっていた。
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