石頭

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石頭

「…ふーん。それで、そのネックレスを買ったのね」 エレナはまじまじとカーラが首にかけたネックレスを見る。 「はい。私はこの透明な水晶のネックレスを買って、他の友だちもこれと色違いのものを持っています」 「それを聞いて安心したわ。友だちと仲が良さそうでよかったじゃない」 エレナは嬉しそうに目を細めた。 「でも、羨ましいな。私もそんな風に青春したかったんだけどね…」 「あの…エレナさんのお友だちは…?」 寂しそうに遠くを見つめるエレナに、カーラは思わず問いかけてしまった。 それを聞いたエレナは軽く吹き出す。 「心配しなくても、もちろんいるわ。ただ、ちょっとトラブルを起こしちゃったから、あまち多くはないけどね」 「そうですか…」 カーラは軽はずみに尋ねたことを申し訳なく思う。 すると、その様子を見たエレナが両手でカーラの顔を包んだ。 「もう、そんなに気にしないで。その友だちがいれば十分だと私は思っているわ。それよりもカーラはもっと自分のことに目を向ければいいの。分かった?」 エレナに笑顔で聞かれ、カーラは小さく頷く。 そんなエレナの気遣いがありがたいと感じるカーラだった。 「君、それはネックレスか?」 突然の男の声に振り向くと、6年生のヨハンが仁王立ちしていた。 「もうすぐ次の講義が始まる。講義中にネックレスのような装飾品を身に付けているのは不誠実な態度に他ならない。よって、君は今すぐにそのネックレスを外すべきだ」 ヨハンが一方的にカーラに向かって捲し立てた。 カーラは唐突なことに呆然とする。 エレナは深くため息をつき、ヨハンに目を遣った。 「…本当、クソがつく程真面目な奴だね。いつもそんな調子で楽しい?」 「何を言っている?僕は人として当然の行いをしているだけだ」 「あっそう」 エレナは明らかに不機嫌そうにぶっきらぼうに答えた。 「さあ、君。講義が始まる前にネックレスを外すんだ」 ヨハンが再びカーラに迫る。 カーラはさすがに外すべきかと思いネックレスに手をかけると、エレナが制止した。 「いいよ、外さなくて。校則には禁止とは書いてないし、こいつのエゴなだけだから」 「聞き捨てならないな。僕の発言が間違っているとでも?」 「ふん。あんたみたいな石頭とは一生分かり合えないみたいね」 「君のような人間に分かってもらわなくて結構だ」 ヨハンはエレナの言葉を一蹴すると、カーラに向かって手を差し出す。 「もう一度言う。そのネックレスを外すんだ」 「カーラ、そんな奴の言うことなんか聞かなくていいよ」 カーラはどちらの言うことに従えばよいか、困惑してしまう。 なかなか決められずにいると、ヨハンが声を荒げた。 「いい加減にしたまえ!早く外すんだ!」 ヨハンがカーラのネックレスを没収しようと、手を伸ばす。 カーラは思わず目を瞑った。 その瞬間、ヨハンの手が見えない壁に弾かれる。 ヨハンは何が起きたのか分かっていないようで、自分の手とカーラに交互に視線を向けていた。 「君…いったい何を…?」 ヨハンは信じられないといった表情をカーラに見せる。 「いえ、私は…」 もちろんカーラも状況が理解できておらず、混乱していた。 「カーラ!そのネックレス、見せて!」 エレナはカーラの同意を得ないまま、ネックレスを手に取り入念に観察する。 街で買ったただのネックレスがどうしたというのだろう。 エレナの行動にカーラはますます何が何だか分からなくなる。 ヨハンも相変わらず、呆然として佇んだままだ。 「…えっ、信じられない!このネックレス、防御魔法が付与されているわ!」 エレナが興奮気味に捲し立てる。 「なんだって!?僕にも見せてくれ!」 先程までの態度はどこへ行ってしまったのだろう。 ヨハンも一緒になって、カーラのネックレスを興味津々で見ようと、エレナと取り合いになる。 ただ、ネックレスはカーラの首にかかったままなので、振り回された。 「あ、あの…お2人とも…!」 カーラが制止しようとするが、あまりにも観察に夢中になっているため2人には声が届いていない。 さらに、エレナがネックレスを引っ張り、カーラの首に痛みが走る。 「…もう、いい加減にして下さい!!」 イラついたカーラは声を張り上げた。 やっとカーラの声に気づいた2人は手を止め、カーラに目を向ける。 「すみません。首が痛いので離してもらえますか?」 「あ…ごめん。つい…」 カーラの静かな怒りに、エレナは大人しく手を離す。 ヨハンもわずかにだが後退った。 カーラ本人は意識していないだろうが、その形相は恐ろしいものであっただろう。 擦れた首をさすりながら、カーラはネックレスを外す。 「…で、これに防御魔法が付与されているってどういうことですか?それって、そんなに珍しいことなんですか?」 怒気のこもった声でカーラは問いかけた。 普段とは違うカーラの様子に、エレナは息を飲む。 「…えっとね…前に機能魔法について教えたのは覚えてる?」 エレナは顔色を伺いながら、カーラに尋ねる。 「はい。確か、道具に機能を与えるための魔法のことですよね」 まだ苛立ちが収まらないのか、カーラの語尾に力が篭る。 「そうそう。でね、いろんな機能魔法がある中でも防御を付与するものってとても珍しいの」 「どうしてですか?」 「単純に防御の機能魔法がとてつもなく難しいからよ。現に、過去にたくさんの職人が挑戦したけど、成功させたのはたった1人だけだと言われているわ」 「そうなんですか…」 カーラはネックレスに目を向ける。 何の気なしに買ったものだが、想像以上に貴重なものだったようだ。 おそらくヘイニに伝えれば、その価値の高さに発狂してしまうか、それとも見抜けなかったことを悔しがるかもしれない。 とにかく大事にしようとカーラは思った。 「…えーっと、少しいい?」 考え込むカーラにエレナがそっと声をかける。 「…はい。もう落ち着いたので、そんなに気を遣わなくて大丈夫ですよ」 「よかった。そのネックレスの防御効果についてなんだけど、私の推測では使用者が危険を感じた時に発動するんだと思うよ」 「え?僕はそんなに危険だったかい?」 ヨハンは不満そうに反応する。 「カーラにとっては、十分危険なことだったんじゃない?だって、あんたみたいな変態に触られそうになったんだから」 「変態とはなんだ!それに僕は触ろうとしたわけじゃない!」 ヨハンは反論するが、エレナはそれを面白がっているようだ。 その様子にカーラもほおが緩んでしまう。 「先輩方、そろそろ授業が始まるんで静かにしてくれますか?あと、お前もネックレスを付けるんだったら、ツナギの中に入れとけよ」 事情を知らないロルフが通りすがりに声をかけていく。 それを聞いたヨハンは、そそくさと自分の席に戻っていった。
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