世界大会2

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世界大会2

「ここがうちが使うテントよ。中は共同スペースの他に2部屋あるから、男女で別れて頂戴」 ブレンダが指示を飛ばす。 そのテントの見た目はそれ程大きくなく、カーラにはとても全員が入れるようには思えなかった。 だが、中に入ると、そこは広々とした空間であった。 「広いですね…」 「だよね?空間魔法で拡張させてるんだって」 リアがカーラの呟きに反応し、教えてくれた。 カーラはエレナも同じように空間魔法を使ってドレッサーを作っていたな、と思い出す。 「じゃあ、部屋決めをしますか…」 「ええ、望むところよ」 ブレンダとハンスが気合いを入れ始める。 「何で決めようかしら?」 「そうだね…ピクシーステップなんてどうだい?」 「いいわ。それで行きましょ」 2人はどこからか人形を取り出し、それを頭の上に乗せ、向かい合う。 すると、バシュレ監督が手拍子を始めた。 2人はその手拍子に合わせ、同じステップを踏む。 「…何ですか、あれ?」 カーラは隣にいたリアに声をかけた。 「知らない?ピクシーステップっていう遊びなんだけど、2人が人形を頭に乗せているでしょ?あの人形をピクシーって言って、あれを落とさないように決まったステップを踏むの。で、人形を落とすか、ステップを間違えるかすればアウトで、アウトになった人から抜けていく感じかな。今回は2人でやるから先にアウトになった方が負けだね」 「そうですか…でも、部屋を決めるだけなら、ジャンケンで良くないですか?」 「うーん、それもそうだけど…」 リアが首を捻る。 「確かにカーラの言う通りね」 その様子に、ユリアが話に入ってきた。 「でも、ジャンケンって運の要素が強いじゃない?だから、ジャンケンで決めると不満を持つ人が出てくるのよ。それで、実力で勝ち負けが決まるような、ああいう決め方をするっていうのが伝統になってるわ」 「なるほど…」 ユリアの説明にカーラはまあまあ納得した。 カーラは2人にまた目を向ける。 傍から見れば、頭に人形を乗せて踊っている姿は滑稽に見えるかもしれない。 だが、2人の表情は真剣そのもので、額にうっすら汗をかいていた。 しかも、かなり激しくステップを踏んでいるのに、頭の上の人形は微動だにしていない。 そのバランス感覚にカーラは驚いてしまう。 次第にバシュレ監督は手拍子のテンポを上げていく。 それでも2人はすぐに順応し、ステップを踏み続ける。 白熱した勝負を周囲は息を呑んで見つめていた。 だが、決着は突然だった。 ハンスの足がもつれたと同時に、ブレンダの頭から人形が落ちたのだ。 2人とも足を止め、アウトになったという意思表示をする。 お互い息が上がり、疲れ切っている様子だ。 2人がアウトになった状況に、注目の目はバシュレ監督に向けられた。 バシュレ監督はしばらく考え込む。 ほぼ同時のアウトに判定が悩ましいのだろう。 そして、バシュレ監督が口を開く。 「今回は…ブレンダ君の勝ちですね」 「よし!やったわ!」 バシュレ監督の判定に、ブレンダがガッツポーズをする。 「さすがです。ブレンダ先輩」 「いやー、すごい接戦でしたね。見入っちゃいましたよ」 ユリアとリアは、口々にブレンダに声をかける。 しかし、カーラはその喜びように疑問を抱く。 「あの…部屋に何か違いがあるんですか?」 「もちろん、全然違うわ。部屋の広さもベッドの大きさも。これから何泊かしなくちゃいけないし、快適な方がいいわよね?」 「はい。去年はちょっとキツかったですし、今年はいい部屋で寝泊りしたいですね」 エレナの問いかけにユリアが答える。 「それじゃあ、私たちが部屋を選ばせてもらうわよ」 「ああ、そうしてくれ」 ハンスは残念そうに手を振る。 ブレンダは2つの部屋を見比べ、早々に決めたようだ。 自分の荷物を持って片方の部屋に入っていった。 カーラたちもそれに従って、手早く荷物を運び込む。 部屋の中は十分な広さがあり、家具も大方揃っていた。 そして、ベッドは1人用にしては大きく、柔らかな布団がかけられている。 これを見ると、もう一方の部屋がどのようなものか気になるところだ。 「じゃあ、荷物を置いたら、すぐに集合して頂戴」 ブレンダに呼び掛けられ、皆が共同スペースに集まる。 「…全員集まったわね?今後の予定を話すから、ちゃんと聞いておくこと。いいわね?」 各々が何らかの反応を示したことを確認し、ブレンダは話を始めた。 「まず、大会期間は1週間。これは去年と同じね。ただ、今年は出場チームが1500チームで過去最大規模の大会になるそうよ。だから、今年から予選が設けられることになったわ」 その言葉を受けて、動揺が広がる。 皆まったくの初耳だといった様子だ。 「ということは、実力が伴わないチームは予選でふるいにかけられるということだね?」 「要はそういうこと。でも、去年の上位10チームは予選を免除されるみたいだから、私たちには関係ないわね」 予選はしなくてもいいということに、皆安堵した表情を見せる。 「よって、本選は予選が終わった後、後半3日間で行われることになるわ。演技順は抽選だから、まだ決まってはいないけれど、いつでもいけるように心構えをしておいて頂戴」 「「はい!」」 「それから、事前練習の日程だけど…」 ブレンダが言葉を詰まらせる。 「何か問題でも?」 「…練習が可能な日が本番の前日しかないそうなのよ。さすがに丸4、5日何もしないっていうのはまずいと思うわ」 「なるほど…箒に乗るのも禁止かい?」 「ええ。大会が始まれば、全面的に禁止ね。違反すれば、出場資格剥奪もあり得るわ」 「そうか、それは参ったな…」 ハンスとブレンダは、頭を悩ませる。 チームメイトたちも不安げな表情だ。 すると、バシュレ監督が咳払いをした。 「…まあ、そう心配することはないでしょう。箒が使えないなら、使わない練習をすればいいだけです。基礎トレーニングやフォーメーションの確認などは飛ばなくても十分にできるはずだと思います」 バシュレ監督は続ける。 「君たちには、今まで積み重ねてきたものがあります。それは、この4、5日で失われるようなものではないでしょう。その点に関しては、自信を持ってください。決して、物事を悪い方向に考えてはいけません。あくまでポジティブに捉えるようにしましょう」 バシュレ監督は笑顔で皆に語りかける。 その言葉に皆、気持ちを落ち着かせたようだ。 「…ところで、開会式は何時からでしたか?」 「えっと、確かに13時だったはずです」 「13時ですね…」 バシュレ監督は懐中時計を取り出し、時間を確認する。 「まだ時間がありますね。今からは自由時間にしましょうか」 「そうですね。開会式の始まる30分前には、会場に集まるように。あと、自由に回っていいけど、トラブルは起こさないようにして頂戴」 浮足立つチームメイトに、ブレンダがしっかり釘を差した。 「では、解散!」
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