ウィトバルト魔法学園

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ウィトバルト魔法学園

ウィトバルト魔法学園。 魔法総統のゲルべ・ウルベント、魔法研究 の第一人者フロウ・フィリップス、薬草学の権威アデル・グルベローヴァなど、数々の著名人をこの世に送り出した歴史あるエリート校である。 今やその在籍数は3000を超え、世界中から選りすぐりの優秀な人材が集まるのだ。 学園を卒業した者には、すばらしい未来が保証されているだろう。 そんな学園に今年もまた新たな学徒が迎え入れられる。 若者たちの輝かしい未来を祈ろう。 青々と広がる草原に1人の少女が寝転ぶ。 時々通り過ぎる風が、草や少女の髪を優しくなびかせる。 少女はぼんやりと雲を眺めながらも、その面持ちは緊張したものであった。 「カーラ!どこにいるの!?」 名前を呼ばれ、少女は慌てて上体を起こす。 「いたいた。さっき通知が届いたわよ!早く帰って来なさい!」 少女は立ち上がり、駆け出した。 カーラが家に帰ると、テーブルの上に一通の封書が置かれていた。 その封書には、ウィトバルト魔法学園の校章が描かれている。 カーラはドキドキした気持ちを落ち着かせようと大きく深呼吸をし、封書を手に取り開封した。 中から1枚の紙を取り出し、恐る恐る広げる。 その紙には、『 カーラ・スミス殿 貴女のウィトバルト魔法学園への入学をここに認める 』と書かれてあった。 それを見た瞬間、カーラは嬉しさのあまり涙を流す。 これで自分の夢であった魔法使いになれるのだと思うと、カーラは喜ばずにはいられなかったのだ。 その夜は、村中でお祭り騒ぎとなった。 カーラの住む村には魔法が使える者は片手で数える程度しかおらず、まして超名門校に合格するなどあり得ない話であった。 それだけに村全体が歓喜に沸き、カーラを惜しみなく褒め称えた。 そして、カーラが村を発つ日には村総出で見送られる。 カーラは恥ずかしく感じながらも、充実した学園生活を送れるよう、気持ちを引き締めるのであった。 新入生たちが希望を抱き、学園の校門をくぐる。 カーラもまたその一人であった。 「さすがは超名門校!入り口からとても立派ね!」 田舎者らしい発言に周りから笑われるが、本人はまったく気づくことはない。 カーラは期待を胸に力強く一歩一歩を踏みしめて歩く。 空を見上げると、上級生が箒で空を飛び、花火を打ち上げている。 カーラもその様子に心を高鳴らせる。 「私の行くべき場所はF棟?どこなのかな?」 学園には入学式などない。 その日のうちに講義が始まるのだ。 学園の中はとても広く地図がなければ迷ってしまいそうになる。 カーラは周囲を見回し一人で歩く女の子を見つけ、彼女に駆け寄る。 「こんにちは!私はカーラ!あなたも新入生なの?」 「ええ。私はハンナよ。よろしくね」 ハンナはにこやかに返事を返す。 その振る舞いはどこか品がある。 「よろしくね!私集合場所に行きたいんだけど道が分からなくて…よかったら一緒に行ってくれない?」 「…いいわよ。一緒に行きましょ」 彼女たちは楽しくお喋りをしながら目的地へと向かう。 しばらく歩くと、先生と思わしき男が声を張っていた。 「入学証を見せてください。あなたはあっち。君は私の後ろの建物です」 どうやら生徒の振り分けをしているらしい。 カーラたちも男のもとへ行く。 「君はA棟。私の後ろの建物です。そっちの君は…待っていなさい。すぐに案内しましょう」 何故かハンナだけが行き先を伝えられ、カーラはその場で待たされる。 「やあ、お待たせしました。彼に案内してもらって下さい」 連れてこられた男は薄汚れた作業着を着ていた。 「よお、新入生。俺はジャックだ。案内するからついて来てくれ」 ジャックは移動中話しかけてくるが、カーラは不安でそれどころではない。 自分だけがまったく違う場所へと案内されるというのは嫌な予感しかしなかった。 「見えて来たぞ。あれがF棟。俺たちの学び舎だ」 見えたのは、他の建物に比べて明らかに古く痛んだ建物だった。 外壁は蔦で覆われ、周囲は雑草が生い茂っている。 建物の背後には森が迫り、F棟だけが他と隔離されているようだった。 「さあ、着いたぞ」 ジャックはそう言うと、正面の扉を開いた。 「ようこそ。ウィトバルト魔法学園工業科へ」
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