二話 淫魔としての初夜

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 二話 淫魔としての初夜

 レイナルドを二階の部屋に案内したジョシュは、緊張に指先を震わせつつも、気丈な笑みを浮かべた。 「本日は誠にありがとうございます」  ベッドの脇で深く一礼し、ベッド脇のテーブルに用意されていた小さなグラスに酒を注ぐ。  レイナルドとジョシュはベッドに並んで腰掛けた。  テーブルはあっても椅子はない。客と交接を持つためだけの、狭い部屋だった。ベッドやテーブルはそれなりに飾り気のあるものを用意しているし、壁に画なども掛けてはあるが、それでも安っぽさは否めない。垂れ下がったカーテンのほつれが俄に気になり、ジョシュはレイナルドに対して申し訳なくも恥ずかしくも思った。 (こんな所に来るような身分の方ではないのに)  レイナルドはフィルグレス伯爵家の三男である。王立貴族学園の騎士科を卒業後近衛隊に入隊し、おそらくは今も騎士を続けているはずだ。ブラッドも騎士だというから、その筋での友人なのだろう。そのブラッドが好むから、淫魔に食指が動いたのだろうか。 (せっかくだから、絶対に満足して頂こう)  やはりレイナルドは、ジョシュを見分けないようであるし。それならば、あの頃の自分とは全くの別人として、淫魔として存分に腕を振るうことに躊躇いはない。安宿だが閨の技巧ならば最高級の娼館にも負けない――そんな気概を持って、ジョシュはレイナルドを歓待しようと決意した。 「どうぞ。緊張がほぐれますよ」  レイナルドに差し出した酒は、店からのサービスである。口当たりのいいすっきりとした香草酒だ。 「緊張している訳ではないが――多少戸惑ってはいる」  レイナルドはグラスを受け取ると、口を付けた。 「僕は緊張していますが。ブラッド様と同じで、貴方も騎士様なのですか?」 「ああ。俺も騎士をしている。レイナルドという」 「レイナルド様」 「ブラッドは同僚なんだが、ここの料理が非常に美味いと聞いてな。奴にとっては料理以外の美味いものもあったらしいが、俺は料理だけで済ます気でいたんだ」 「ああ、それなのにブラッド様にせっつかれて」  ブラッドがレイナルドを肘でつついていたひと幕を思い返しながら、ジョシュは相槌を打った。  元から料理だけで済ませる気だったということは、淫魔を抱くことに抵抗があるのだろう。そう推測すると、前向きに奉仕する心づもりでいただけに、気が落ち込んだ。 「それでは今夜はお話だけになさいましょうか? 酒やつまみを見繕って参ります」  ジョシュは腰を浮かし掛けたが、レイナルドは手を挙げてそれを留めた。 「いや、いい。君を見て気が変わったんだ。名前はなんという?」 「――ジョシュ、と申します」  それは十年前、レイナルドと別離した後に名乗りはじめた名だった。ジョシュの本名を聞いた『黒山羊亭』のオーナーが、本名に似た名が良いだろうと付けてくれた名だった。それ以来、ジョシュは本名を名乗った事がない。 「ジョシュか」 「淫魔は苦手ですか?」 「いや……考えたこともなかっただけだ。ただ――君はとても綺麗だと思った」  レイナルドの率直な物言いに、ジョシュは思わず頬を染めてしまう。容姿に関する褒め言葉など言われ慣れて珍しくもないし、それが儀礼的なものであることも理解している。だのにジョシュは、レイナルドの言葉にはまともに反応をしてしまった。 「あ……、ありがとうございます」  それに目を留めたのかレイナルドは群青の瞳を和ませると、ジョシュの金色の髪をひと房つまみ上げた。白金の髪は客の反応がいいので、肘の辺りまで伸ばしていた。 「随分と可愛らしい反応をするものだ」  レイナルドは髪に唇を落とす。体温を感じるほど身近に寄り添われ、ジョシュは鼓動を跳ねさせた。頬に更に血がのぼっていくのが、自分でも分かる。 「いえ……、僕こう見えても結構長いんですけど……」  いちいち生娘のような反応をしてしまう己が恥ずかしくふがいなくて、ジョシュは口をもごつかせながら両手で頬を覆い隠す。 「そうなのか。どのくらいこの仕事をしている?」 「……十年程度、ですね」  素直に答えると、レイナルドは指先から髪を滑り落とした。 「――君は二十歳程度に見えるが……?」 「ええと、淫魔はあまり歳を取らないもので……こう見えて二十五、六にはなっているんですよ。生年が曖昧なので正確な所は分かりませんが」  またしても素直に答えてしまったジョシュを、レイナルドがまじまじと見返す。彼のその動作で我に返ったジョシュは、慌てて手を振り立てた。 「わあ、すみません! 歳の話なんて興ざめですよね。ね、ごめんなさい」  二人の間の、空いてしまった隙間を埋めるように寄り添い、レイナルドの胸に頬を寄せながら襟元に指先を滑らせる。見るからに質のいい貝ボタンを爪繰りながら、レイナルドを見上げた。 「抱いて頂けますか?」  上目遣いに微笑めば、レイナルドは意外と性急な仕草でジョシュをベッドに押し倒してきた。かぶりつくように唇を重ねられ、ホルターネックの黒いリボンを解かれる。光沢のある重たげな生地が肌を滑り、白い胸があらわになる。レイナルドは角度と深さを変えてキスを繰り返しながら、赤い胸先に触れてきた。  ぴりっと走る快感に、ジョシュは自分の乳首があっという間に硬さを増したのを悟る。芯を持ちぴんと尖ったそれをレイナルドが弄ぶので、甘い吐息を漏らしてしまう。 (レイナルド様はどんなのがお好きだろうか)  昔、彼と肌を重ねたのは一度だけだった。お互いに不慣れで若かったせいで、ひどく大変な目に遭った。ジョシュの負担が大きかったのは確かだが、それよりも、恋慕するレイナルドと身体を繋げられた幸福感が勝った。  レイナルドがあの時の行為で快感を得られたのかどうかは分からないので、今度は楽しんで貰いたいのだ。  レイナルドのキスに応えて舌を絡め合わせながら、ジョシュは彼の股間に手を伸ばす。仕立ての良い硬めの布地で覆われたそこはすでに兆しはじめていて、ジョシュは頬を綻ばせるとそれをやわく握りこんだ。そしてキスを繰り返しながら巧みに体位を入れ替えて、レイナルドの股ぐらに入り込む。目視した兆しは既に窮屈そうに布地を押し上げている。ジョシュが手早く前立てを寛げると、それはぶるんと飛び出してきた。長さも太さも申し分なく、カリの大きく張り出したそれに、ジョシュはすかさず舌を這わせる。レイナルドに見せつけるかのように、平たく突き出した舌を亀頭に這わせ、カリの膨らみを下から舐め上げる。先端に滲んだ滴を尖らせた舌先でちろちろと舐め取り、小さな孔を穿つように押さえつけたまま、唇をかぶせて吸い上げる。  そうする間にも両手で竿を刺激し、重たい玉を揉み込んでは、また竿を刺激しつつ裏筋を撫で上げてみる。  腕が触れているレイナルドの内腿が引きつり、緩んでは撓う。それに合わせて深い吐息が溢れるの聞き、ジョシュは満足げに金色の尾を揺らがせた。淫魔の、鞭のように長く細い尾は、案外ちからが強い。人の手首や足首を絡め取って固定することも造作ない。尖った先端で肌をくすぐることも、屹立の孔やはたまた尻の穴を責めることも出来る。  だがまあ、それを悦ぶ相手かどうかは見極めているつもりだ。ジョシュは振り立てていた尾は、大人しく己の腿に絡めておくことにした。  レイナルドの屹立は、ジョシュの口に余るほどに育っている。剛直と呼んで差し支えのないそれを、ジョシュは根元からべろりと舐め上げると、己の下穿きを素早く取り去った。胴にまとわりついていたホルターネックもむしり取ると、一糸まとわぬ姿になってレイナルドの腰をまたぐ。そして後ろ手でレイナルドの屹立を固定すると、己の尻の狭間に含み込ませたのである。
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