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【1ネジ】隣、空いてるよ
ふらりと立ち寄った店のカウンターの隅で、藤宮千幸はわずかに眉間を寄せチカチカ光る携帯を眺めると小さく吐息を吐き出して、いつもと変わらぬオーダーを頼んで飲んでいた。
八時から来店し、すでに一時間以上は経っている。
社会人になってから、落ち着いた雰囲気が気に入ってちょくちょく頻繁に利用していたので、千幸の顔を見るなり店主も何も言わずに奥へと案内してくれ好意に甘えていたが、ダラダラともやもやと時間を潰していた。
次第に混んでくる店内。いつまでもここを占領することも、物事を先延ばしにするわけにもいかないと、あと一杯で最後にしようと店主の方へと視線を投げようとした時だ。
まだ、他にも数席空いているのに、千幸の隣の椅子が引かれた。
視線を上げると思ったより上へと向かい、純日本人ではあり得ない榛色の瞳にまず目がいく。
「ここ、いいですか?」
今まで無縁だった、いわゆるハイスペックな男が穏やかに口元を引いて立っていた。
シワひとつないスーツ、シャツ、ネクタイ。彼の体格にあったそれはオーダーメイドの一点ものなのだろう。
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