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ちらりと見えた腕時計も、重厚なつくりで有名なロゴが入っていたからかなり値段の張るやつだ。
パッと見てそう観察はしたが、まあそれだけだ。
「どうぞ」
社会人らしく、千幸も相手にならいにっこりと笑顔を返し、最後のオーダーと決めたモスコミュールを頼むと口をつける。
その間もチカチカと携帯が光る。音は消してあるが、下手に触ったら応答してしまいそうで、本当にしつこいっと千幸は苛立ちとともにそれを眺めた。
「ずっと鳴ってるようだけど、出なくていいの?」
その声に、えっ、と千幸は横へと顔を向けた。
────そういえば、いたんだった。
己の思考に没頭し、すっかり忘れていた隣の存在に声をかけられ思わず固まってしまったが、迷惑だっただろうかと慌てて謝罪する。
「すみません。すぐにしまいます」
「いや。いいよ。気になっているようなのに、出ないなと思っただけだから。話しかけて驚かせてしまってごめんね」
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