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話についていけず言葉を繰り返す千幸に、切れ長の双眸は獰猛に細められながら、ゆったりと言い聞かせるように告げる。
「そう。引っ越し。住む場所に困っているんでしょ? 実家には帰りたくないって言ってたし」
「確かに言いましたが……」
「だよね。なら、俺の隣の部屋が空いてるし、今から一緒に荷物取りにいって、“しっかりきっぱり” 別れを告げて、そのまま越してきたらいい」
しっかり、きっぱりのところを力強く告げられ、引っ越すことも決定されたような言い回しに戸惑いしかない。
千幸はその戸惑いをそのまま声に乗せながら、状況を整理しようと言葉を重ねた。
「いいって言われても困ります。荷物を取りにいくのは、先延ばしも嫌なのでそうするつもりでしたが、引っ越すにはもう夜ですし。
大家さんとかそもそも場所や家賃とかいろいろ決めてからじゃないと」
不安や当たり前のことを告げたつもりだったのに、相手はあっさりと何でもないことのように話を勧めてくる。
「ああ、大家は大丈夫。家賃もいらないし。荷物多い?」
「そんなに多くないですが」
思わず答えてしまったが、家賃いらないとはどういうこと?
もしかして怪しい話?
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