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「……ああ」
そして、いろんなものを飲み込むように頷いた遊川と数秒見つめ合う形になったが、そこで小野寺に無言で腕を引かれた。
千幸もとくに抵抗することなく、最後に玄関横に鍵を置いて、小野寺に促されるまま歩き数ヶ月住んでいた家から離れていく。
感傷に浸りたかったわけでもないが、そんな暇もなく元彼となった男のマンションを後にした。
あっけない。
終わりは実にあっけないものだった。
これまでの付き合ってきた時間は何だったのかと思うほどに、ぱたんと閉まったドアの音が軽く聞こえた。
現実味がないのか、いろいろまだ気を張っているのか。
あっけない終わりの音は、新たな扉がゆっくり開いていたことにこの時の千幸はまだ気付けなかった。
そして、荷物の行方を疑問に思うのも、乗った車が走り出してからだった。
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