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どこを向いても
駅前で待ち合わせをした千幸は、小野寺に連れられ彼が予約してくれた『HOUSE』という店に来ていた。
身長百六十二センチの千幸より、頭一つ分高い小野寺が店の扉を開け、「足もと気をつけて」と誘導される。
距離が近くなると、覚えてしまったほのかに感じる整髪料と小野寺の匂いが千幸の鼻をくすぐる。
これは小野寺の匂いだと覚えるほど近くにいるのに、こうして二人で外で会うのはあのバー以来であった。
三段ほど上がり開かれた扉から見える店内の壁一面には、いくつかの区画に分けられ、数え切れないほどのお酒が並べられている。
カウンター席にも酒、そして磨かれたグラスが並べられ、黒い黒板にはオススメメニューが白のチョークで書かれていた。
顎鬚の似合うダンディーな男性とすらっとした若者がカクテルを作り、おっとり優しそうな女性が注文を聞いて厨房に伝えている。
明かりを絞った店内は暖かみのあるオレンジの光のみで、洒落た店で見かける青や赤といった色のついたライトもない。
ものすごく凝った作りになっているわけではないが、一つ一つに愛着が持てるようなまとまりを感じすごく居心地のいい店だ。
それぞれ形も色合いも違う木製の机が並べられ、千幸たちは奥のダークブラウンの正方形の机に、革張りの一人用のソファが対面に置かれてある席へと案内された。
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