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堪能してしまったら最後、何か捕って食われそうというか、勘違いだったらいいがあまり気を抜きすぎるといけないと、出会った時から思っていた。
身体をやっとずらしてもらい視界が広がると、彼の仕事仲間であり友人の轟邦彦が立っていた。
朝からスーツをバシッと決め、シワひとつない真っ白なシャツが眩しい。黒縁メガネの奥の一重の瞳は涼しげで、朝から友人のこんな場面を見せられても顔色ひとつ変えない。
……いつの間に?
そして、新たな視線を感じ、さらに後ろへと視線を向ける。
同じ階の住人で、ちょうど出てくるところだったらしい迫力美人──桜田弥生が、視線が合うとひらひらと手を振った。
それに対しぺこりと頭を下げると、赤いルージュで塗られた口元が綺麗に引かれる。
彼女も小野寺と以前から知り合いらしく、ここに連れられて来た時から気心の知れたやり取りを何度も見ている。
そして今、千幸だけに注がれる眼差しは面白そうに細められ落ち着かない。
それらに不自然な笑みを返しながら嘆息すると、目の前の男性を見上げた。
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