どこを向いても

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 真顔で返され、濁した言葉をそのまま鵜呑みにされ罰が悪い。 時々、この人は天然なのか、ただ変わっているだけなのかわからないところがあった。  一筋縄ではいかない人だというのはあの夜の出会いから十分に知らされているが、たまに天然かって思うほど素直に言葉を受け止める。  千幸が言うことを真面目に受けとり合わせてこようとする。 こっちは合わせて欲しくて発言している訳ではないが、付き合いの程度を距離に表すなら、千幸が提示したものによって距離が開くことは考えつかないのか、ちょっとしたことでも妥協案を出してくる。  朝からの出待ちならぬドア待ちみたいに己のしたいようにしながらも、窺うようにこちらの反応を見ながらすり寄ってくるところが、大きな血統証つきの犬に懐かれているようだとも思う。  ここまでされていれば、好かれているのだろうとは理解している。だが、小野寺は出会いからこの距離なので、その好きの種類はわからない。  だから、千幸は目の前の男に対して深く考えないようにしていた。  でも、毎日見る隣人は顔が良すぎる。服の上から見る身体もいい。造形は目の保養でしかないし、仕事もできるらしいとなれば同じ社会人として尊敬はする。  深くは考えないようにしようとは思っても、ちらちら視界に入ってこられ、すりすりとすり寄ってくる相手を締め出すのは至難の技だ。  ────本当、この人何がしたいのかな……。
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