どこを向いても

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 ちょうど、頼んでいたハーフ&ハーフが届いたのでそのまま話を流すことにする。 いつもより濃いめのビールの色味と泡を見ていると、仕事終わりの一杯として早く喉を通したくなる。 「千幸ちゃん」  しっとりくる声が自分の名前を呼び、グラスを傾けられたので、千幸も同じように傾け小さくカツンと合わせた。  ふっと微笑みながら千幸を見つめ、グラスに口を当てる隣人はある種、視界の暴力だ。  すっきりした顎、肉厚の形の良い唇から男らしい喉仏をビールが通っていく姿は、コマーシャルでも見ているようだ。それくらい洗練され、絵になる。  やることなすこと、色っぽい。グラスを置くとどこか甘さを含む視線をすぐさま向けられ、おちおち飲んでいられない。 ドキッとするよりは肩を竦めたい気分、という方があっているかもしれない。  今日はいろいろ思うことが多い日だった。  元彼が転勤決定。そのことにすっきりはしたが遊川の方はそうでないのか、いつもより視線が合うことが多かった。  やはり、話し合いをした方が良かったのかと、相手に気取られないように意識しながらちらりと考えたりもした。  だが、一ヶ月も経って今更浮気の理由を説明されたところで、気持ちが離れてしまった今では一緒だと思う。
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