どこを向いても

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 遊川と付き合うと決めた日から、社内にはバレないようにしようと決めていた。 別に社内恋愛禁止というわけでもないが、何かと周囲に見られ気を遣われるのが嫌で、仕事は仕事で集中したかったからだ。  だから、別れた後となっては余計に彼もプライベートのことを話にくかったのだろうし、彼の連絡先はブロックしていたのでもし連絡くれていたとしても取りようがなかったと思う。  思うが、もう少し彼の言い分を聞いていても良かったのかなと、少し時間が経ってやっと自分のペースを掴み気持ちに余裕ができた今、思わないでもない。  面倒だと思う部分と、やはり九ヶ月も付き合ったのだから、浮気現場を見ただけで何も聞かずに別れたのも薄情なのか。 でも、そもそも浮気する方が悪いとも思ったりもする。  気持ち的にはすっきりはしたが、考えるとやはりどこかもやっとした部分を抱えてはいた。  いたが、自分から何もするつもりはない。 何より、その日がきっかけで千幸は目の前の小野寺に構われているのだ。マンションを世話してもらったり、出待ちしてもらったり? 食事に誘われたり。  優しい眼差しと、するっと出てくる甘い言葉で真綿にくるむように、振り向けば彼がいる。  どこを向いても小野寺の存在を感じるというか、仕事の時以外に小野寺のことを考えずにすむ日はない。
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