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「“そんなこと” というなら呼んでくれたらいいのに」
「そう言われると、そんなことでもないですね」
それも特に考えもせず返すと、小野寺の眉間が寄っていく。
素直な反応は本人自覚してなのか無意識なのか、しゅんと目の前でされると絆されそうだ。
「千幸ちゃん、可愛いのに可愛くない」
拗ねたように告げられ、くぅぅんと鳴いているように甘えた眼差しで見つめられる。
千幸はその瞳の熱量に押され小さく嘆息した。出す声もわずかに掠れる。戸惑いと、胸にくすぶる何かが平常でいられない。
「なんですか、それ」
「ね、ダメ?」
目の前には甘えてくる年上の男性。
どうしても名前を呼んでほしいと、強く強く懲りずに切望してくる。
子どもかっ!! そう思うと、そんな子ども相手にいつまでも固辞するのもかわいそうだ。
何度も何度も告げられ、千幸の心は今朝まで面倒そうだと思っていたことが揺れ始める。
「名前ですか?」
「うん。本当はどっちでもいいんだろ?」
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