どこを向いても

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 甘く整った双眸で千幸を逃さないまま、美貌の男はそう(のたま)う。  そういうところはしっかり見て敏いのに、千幸が困っていて引いて欲しいところは理解してくれない隣人は手強い人物だ。  隙を見つけてするする入ってきては、撫でて広げるように定着してくる。  こだわる相手に、こだわりのない千幸だとやはり相手の方が強い。しかも、こちらの心情を相手はしっかり把握しているとなれば勝てる気がしない。  千幸はふっと口元を緩ませると、小野寺の端正な顔を見つめた。もう降参するしかない。 「まあ、そうですね。じゃあ、翔さん」 「…………何か味気ない」  喜ぶかと思ったら、なぜか呼んだら呼んだで文句がきた。なら、どうしたらよかったのか。  やっぱり面倒くさいじゃないか、と今なら軌道修正可能だと撤回の言葉を口にしようとすると、すぐに察した小野寺に止められる。 「なら、戻しま」 「ダメ。もう一回呼んで」 「……翔さん」 「はい」
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