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仕方なしに呼ぶと、ふわっと嬉しそうに顔を綻ばせ小野寺が笑う。その姿に、不覚にもきゅうんと胸がなった気がした。
しかも、かしこまって「はい」って。何か可愛いっと思ってしまったじゃないか。
いやいや、気のせいだ。視覚の問題なだけでときめいた訳ではないと、千幸は瞬き一つでその思考を追いやった。
これはきっと、名前呼んだだけでやっぱりがつくが心の底から嬉しそうにされて、それがこっちに伝播してきただけだ。
千幸はそう言い聞かせ、それっきりさっきの顔は追い出し運ばれただし巻き玉子に箸をつける。
ふわっと口の中で広がる優しい甘みがすごく落ち着く。だがすぐに、千幸が食べてる姿をにこにこと見ている相手に、ぴくっと眉を跳ね上げた。
「食べないんですか?」
「食べるよ」
そう言いながら、じっと千幸を見ている。見ながら言われると、この姿を見て食べてると言われているようで、口の中に広がった優しい甘みが吸い取られていくようだ。
────無駄な美貌ってこういうこと言うんだ……。
美貌の無駄遣いをやたらされているようで、勿体無いなとまで思えてきた。相手が千幸に何を求めているのか見えない。言葉にされているようで、されていない。
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