消滅

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消滅

館には関係者達が留められていた。 不思議なのは揃って首を傾げている点だった。 「つまり、皆さんは誰一人としてこの遺体の身元をご存じないというのですね。屋敷の駐車スペースには高級車が止まり、ポケットには免許証。佐々木龍一と書かれています。警察が調べたところ容易に判明しました。今日こちらで行われたパーティーに奥さんを伴って出席されているようなんですが。彼は、貴女の配偶者ではありませんか?」 島原の指摘を受け、佐々木美波を名乗る女性は得心がいかない風に言った。 「そんなはずがありません。私はこの年まで独り身を貫いてきました。息子はおりますが、父親と関係が切れた後妊娠がが判明し、以降一人で息子を育てました。経済的に困窮してた私を支援してくれたのがマダムです。二度と、そんな話を蒸し返さないでください」 「そうですか。失礼しました。お詫びいたします」 島原は頭を下げた後、勘解由小路に視線を向けた。勘解由小路は顎をしゃくって出て行った。 断りを入れて部屋を出たところで勘解由小路は待ち構えていた。 「災難だったな島原」 「こんなこといつものことだ。どうなっている?明らかに佐々木美波は佐々木龍一の」 島原の言葉を遮って勘解由小路は言った。 「本人が違うって言ってる以上違うんだろうな。お前が叱られてる間に電話で確認した。佐々木龍一が経営していた会社だがな。全然違う会社のオフィスになっていた。要するにこの世から佐々木龍一は完全に消滅したと考えるしかあるまい。佐々木龍一に纏わる全ての過去、全ての関係性が消滅した。今回の事件はこういうことだ。撃った対象を完全にこの世から消し去る銃が存在するらしいな」 重苦しい沈黙の後、島原は言った。 「そんなことが有り得るのか?本人だけでなく周囲の人間の過去すら改変可能な攻撃だというのか」 「まあ並の人間に出来ることではないな。館にはマダムルーリー以下人間しかいなかった。考え得るのは」 勘解由小路の言葉を遮るように、乾いた破裂音が聞こえた。 「銃声か?」 「小さいな。拳銃、それも小口径の弾の音だ。22口径、いやそれ以下か」 島原は走り出した。 「聞こえるか?護田さん」 取り残された勘解由小路は、僕を呼んだ。その耳に、そっと告げた。 銃声が何発か聞こえて、場が沈黙に包まれた。 それは、確かに何かの終焉を物語っていた。 神楽坂千鶴は、タクシーで現場に到着した。 私を呼び出しておいて、祓魔官がいないとか有り得ないわね。 神楽坂は携帯で祓魔課に電話をかけた。 「!祓魔官はどこにいるんですか?!祓魔課が人手不足なのは解りますがこんな状況で呼び出されてもーーあれ?ーーあ」 突如全身がガクガクと震え出した。恐ろしいまでの喪失感があった。奈落の底に一人どこまでも落ちていくような感覚に襲われ、神楽坂は倒れ伏した。 鑑識を始めとした警察関係者が慌てて彼女を抱えた。 全身から大量の汗を吹き出し、神楽坂千鶴は白目を剥いて震え続けていた。 神楽坂ですらそうだった。改変されたしまった過去。 誰一人として認識もままならないまま、島原雪次課長と勘解由小路降魔祓魔官は、この世から完全に消滅した。
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