ミンガス部屋

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ミンガス部屋

次に開けた扉の先には、面相の悪い太ったアフリカ系アメリカ人が太い葉巻を咥えてウッドベースを抱えていた。 勘解由小路はこう言った。 「何だ。チャーリーじゃないか」 「チャールズだ!チャールズと呼べチーノ野郎!」 「黒人差別が許せんがチーノは差別するんだな」 察するにチャールズ・ミンガスっぽかった。 「マイルスのブルームードは良かったぞ。イマイチお前の存在が薄いところが特に興味深かった。よく練られた演奏だった。ピアノがなくテディ・チャールズがヴィブラフォンやってるのもいい。全編通してベースの存在感が気になる。ところでお前が関わったアローントゥギャザーな。何であんなヨレヨレなんだ?ミンガスのガスが抜けちまってミンになっちまってるじゃないか。いや、俺は好きだぞ?CD買っちまったし」 「CD?!CDっで何だ?!俺のプレイの何が悪いんだ?!よれてんのは味だ!それで何が悪い!別に酔ってねえぞ俺は!」 島原は勘解由小路の手を引いて出ていった。 「悪いな。ミンガス部屋だった。ちょうど聞いてたCDがこれだったんでな。CDレコは便利だ。直立猿人の方が良かったかな?」 「おい。真面目にやれ勘解由小路。そんなの聞いてるからだぞ」 「非存在になりそうなんだ。携帯でこれ聞いて元いた世界と繋ぎ止めてるんだ。お前はよく消えないな」 正直、妻と子供で頭がいっぱいなのは否定しなかった。彼女達への思いが自分をこの世に繋ぎ止めているなら、 是非もない。誰よりも強い。妻子を思う気持ちは。 「次は誰だ?」 「とりあえずこの扉だ。入ってみよう」 「ああ。久しぶりだな勘解由小路。島原も元気そうで何よりだ。なあ、ところで俺は」 そっと扉を閉めた。 「今のは見なかったことにしよう」 「お前の普遍的無意識はどうなってるんだ!チャールズ・ミンガスの隣は二階堂か!解決させる気があるのか?!」 「どこの部屋に誰が入っているなんて把握していない。俺としては次はあれだ、ジョン・コルトレーンだといいなと思う」 「真面目にやれお前はあああああああああああああああああああ!」 島原の叫び声が広大な洋風建築に響き渡った。
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