城を臨んで

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城を臨んで

リムジンには、新たに星無月子の姿があり、真琴の対面に座っていた。 「フカフカのシート。お姉さん達が乗っていてとてもいい匂いね。お腹が空いちゃうわ」 どこかで、とても大きなお腹がなったのが聞こえた。 いやそんなはずは。この小さな女の子が、そんな音立てるはずが。 「ところで、真琴さん。ずっと大人しいわね。何かあったの?」 真琴は、途端にポロポロ泣きだした。 「降魔しゃんがいなくなってしまったらどうしようかと。 もう、心細くて」 あああ。志保は真琴を抱きしめた。 「大丈夫よ。殺したって死ぬ人じゃないもの。ああよしよし。胸がキュンとしちゃいそう。真琴さん本当に可愛いわね」 にわかに志保の母性本能がくすぐられているのを感じていた。冷徹なクールビューティと見せかけて、実際は子供のように夫に縋る可愛い妻の姿があった。 「二人は私達で助けるのよ。しっかりしなきゃ」 「志保さん。うえええええん」 「もう。子供が四人もいるのに。わ、私も、雪次君がいないと。うう。うううう」 揃って泣いてる母親達がいた。 志保と真琴が肩を抱き合って泣いている様子を、星無は興味深そうに見つめていた。 「ふうん。普通の人間は大事な人がいないとそうやってメソメソするのね。凄くいい匂い。美味しそうね。貴女達」 「私達を食べないでね」 「食べないわ。始君に絶対食べるなって言われているから。言われなきゃよかったのに」 食べる気満々だった。 「グス、星無さん、ずっと警戒していたのですが、とりあえず敵対の意思なしと判断してよろしいでしょうか?」 真琴の言葉に星無は頷いた。 「大好きな人の為にわざわざ水晶堂の扉を開いた人達だもの。とても食べられないわ。特に貴女、自分が蛇になってしまいそうなのに一生懸命耐えたわね。貴女のような人と関わりを持っていればきっと美味しいものに出会えそう」 さっきから食べ物の話しかしてないわね貴女。色気ばっかりの真琴に食傷気味だったが食い気しかない人間は新鮮だった。 しかしもう食傷していた。 「美味しいものですか。最近は美味しいショコラティエの方との知己があります。降魔さん救出の暁には、最高のショコラをプレゼントいたします」 「本当?私あれがいいの。大宮のグランドホテルにあったあれ。建物みたいなチョコレートがナイアガラの滝みたいになってる奴。山盛りになった美味しい果物が泳ぐのよ」 ショコラタワーね。私の式の時にもあったわ。出すタイミング間違えて殆ど誰も食べなかったけど。 「うん。じゃあ頑張るわ。私をこんなにやる気にさせたのは始君以外貴女が初めてよ。みんなお金を積むだけなんですもの。あんまり美味しくないのよ。茶色い奴は」 さっきから本当に食い物の話しか出てきてなかった。 「ああ見えたわね。あれが貴女のご主人が建てちゃった城ね。凄いわ。まるで全ての人類を一箇所にまとめちゃったみたい。勘解由小路さんでしたっけ?彼は魔法使いに高い適性がある。始君レベルね。自発的じゃないから尚更凄いわ」 「あんなものが。志保さん見えますか?」 「見えるわ。凄い大きなお城ね。果てのないシンデレラ城みたいね」 「眼鏡のお母さんの目にはちょっと手を加えてあるから。本当はイシャウッドのオーバーシーの眼球を食べさそうとしたんだけど。駄目だったので一時的なものよ。モノクルお母さんと一緒にいる間だけピントが合う仕組み」 食べるところだったのか。四月一日君に感謝するしかない。 「それで、どう斬獲しましょうか?」 「私は全てのものを終焉に導く女。だけど、迂闊に手を出してしまうと城が消えてしまい、結果的に旦那さんまで終わらせてしまうの。中に侵入して弾丸を撃った魔女を直接消すしかないの。広い広いお城を探索する必要があるの。始君を連れて来れば良かった。彼は何かを探す時凄い力を発揮するんだけど」 「探し物は降魔さんが一番です。まず降魔さんと合流しましょう」 「ところがそうはいかないの。旦那さん達のいる世界と貴女達のいる世界は薄い壁の向こうにいるの。どれほど近くても交わることはないのよ。本来あの城は存在と非存在のバランスを崩し、結果非存在となってしまった者の住む城だもの。あそこは巨大な霊廟よ。生きている者は非存在者と会うことは出来ないの。だから、私達は旦那さん達に頼ることなく魔女を探す必要があるの」 そんな。真琴は小さく呟き城を見上げた。 そこは、勘解由小路が作り上げた白亜の、真琴を拒む巨大な伽藍堂だった。
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