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「あーーーっクシダさまだっ。きゃーーっっ」
「何のご用ですかあ、わたしが承ります!」
女達は金髪の副官をわっと取り囲んだ。
娘も、背中に赤ん坊をくくりつけた妻女も。
杖をついた老婆まで。見た目が良いだけで、こんなにも女はなびくのか。
敵だろ。
敵だぞ、こいつらはこのミューゼナ村を突然前触れも無く襲って牧草地に天幕を張り、駐屯してしまった侵略者だろ。
おまえら危機感もてよ……。
マクミリアは言いたいことを我慢する癖が子どもの頃から身についている。
そうでも無いと、女が強いこの村では生きていけない。
「クシダ副官どの。何かご用でございましたか。呼び鈴は長年使っていませんでしたのでご無礼をいたしました」
マクミリアは膝掛けを外して女達に囲まれているクシダの側に寄っていった。
身長は同じくらいだが鍛え方が違う。
クシダ副官の繊細な顔立ちはまるで物語の挿絵か役者のよう。
この男が、アゼスト国で冷酷非道な戦法で数々の武功を立てた男だとは、すぐには信じられない。
腰に下げている刀は、侵略した東国の王から奪った戦利品の中から彼自身が選んだという、名刀・シラサギ丸というらしい。
細身の刀は黒い木の鞘に収まっていて、不気味な静けさを放っていた。それは、クシダ本人の気配にとても良く似ていた。
「ええ。ご婚約が成立しましたのでアゼスト国の慣習に従い、今夜からエンティトナ姫と我が主、ジオナス王子は同じベッドでおやすみになられます。皆様方にはその準備をしていただきたい」
きゃーーっと、女達が顔を赤くして叫び出すのをマクミリアはじろっと一瞥して黙らせた。
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