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「わたしの妻としてだな」
やっぱりそうなったか……。どうやって断ったらいいのか。それよりもこの傲慢王子様の妻になんて絶対に嫌だっ。
「俺の妻になるのが不満そうだな」
ジオナス王子がゆっくり立ち上がり、エンティトナの前に立った。
「俺もおまえ自身には全く興味は無い。必要なのは、おまえの血筋だけだ。安心しろ」
「安心しろって……何よそれ、失礼極まりないんですけどっ」
「まあまあ……ジオナス王子。それはプリンセスに対して失礼ですよ。結婚の申し込みなのですから、もう少し気の利いた言葉をお使いになってはいかがでしょうか」
副官。
この王子様の扱いを心得てる。
それは分ったけれども、ティトラス王国の軍勢が整うまでの間、ジオナス王子の軍をミューゼナ村から一歩も動かしてはならない。そう、兄であるトリュニトに誓ったのだ。
「いいわ。結婚してあげるけど。その代わり条件があるの」
「いいだろう。言ってみろ」
「結婚式はエアラ山脈に住まう神々の祝福の元、ミューゼナ領地で行うこと。それが条件よ」
しばらく考え込んでいたジオナス王子は、ふっと息をはいた。
「エアラ山脈が神格化されていたとは知らなかったな。知っていたか、クシダ」
ぐっと息をのんだエンティトナをクシダがちらりと見た。
「いいえ。ティトラス王国とは国交が無かった。ましてやミューゼナ村のように辺境の地の風習など外部には伝わらないのではないでしょうか」
淡々とした声。感情が全く読めない。
……口からでまかせだったけれども、なんとか援軍が来るまでの辛抱だ。
エンティトナは、引きつる顔をなんとか笑顔にまとめ、ジオナス王子に言った。
「そういう事ですので、ジオナス王子にも儀式に参加していただきます」
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