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「ねえ、マクミリア兄さん。エンティトナさまのお部屋の準備をした方がいいよね」
「ああ……そうだな」
ぎりっと歯を食いしばり、マクミリアはだんっと音を立てて壁を殴った。
エンティトナ姫の兄、領主のトリュニトが援軍をつれて戻るまで、早くても一ヶ月。それまでの間、この軍隊に大切な故郷と村人を護る責任が、ずしりと背中にのしかかってきた。
メイドたちが慌ただしく働き始め、マクミリアも彼女たちのぱたぱたという足音に急かされるように厨房を出た。
エンティトナの顔を見るまでは、おちつきそうに無かったが、はたと立ち止まった。彼女に会って、何を言えばいいのか。そう思いながら回廊から空を見上げた。
エアラ山脈の岩肌を利用した天然の要塞。領主の館は国境沿いの辺境地にありながら、防衛の要として岩をくりぬき、山から清水を引いて籠城すら可能だった。
村人達を砦に避難させて頑丈な扉をしめてしまえば、本来ならば簡単に陥落されるような砦では無かったのだ。
「トリュニトさま……あなたは一体、何をしようとしているのですか……」
拳をにぎりしめた。赤く腫れ、じりじりと痛んだ。
壁を叩いた瞬間に、マクミリアは副官クシダの冷酷な表情を思い出していた。あの男は、何か知っている。
そう確信していた。
今は、冷静に状況を判断しなくてはならない。
なんと言っても、本来ならば武器を持って砦を護る兵士になるはずだった男達が出稼ぎに行き不在の今を狙われたのだ。
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